第3話 命拾い(社会的に)
さて、どうするべきか。
結局、次の日になっても俺の頭は彼女のことを考えていた。
いや、本当にやましい気持ちは一切なかった。そりゃ見えるならちらっと見てしまうのは男として当然の反応というわけで、別に覗き見しようと思っていたわけではないし、見えるから仕方なく見てしまったというかなんというか…
「彩ちゃん!カラオケ行こうぜ!」
「断る」
「彩ちゃん!ボーリング行こうぜ!」
「断る」
「彩ちゃん!最近なんかあったか?」
「あった」
「お?何があったんだ?」
「図書室で偶然知り合った子の下着を見てしまったことがバレた」
「おぉ…なんか色々やばそう?」
「あぁ。だからお前に付き合ってる暇は…あ?」
授業が終わり、いつものように図書室に行く気にもならず教室で頭を抱えていると、友人に話しかけられるがそれどころではない俺は適当に返事を…
俺は今、何を口にした…?
「あっ、その別にわざとってわけじゃ…」
「ふーん…あの彩ちゃんがねぇ?」
顔を上げると、いかにも興味津々ですよと言うような顔の茶髪の男。
名前は神田大介。小学生時代からの友人、まあいわば幼馴染というやつである。
「どんな娘なんだ?可愛いか?」
「あ〜いや……まぁ、可愛いけど」
「ほほぉ…?その反応、結構かわいい感じだな?名前は?」
「名前…そういや聞いてないな」
大介にそう言われ、名前を聞いていなかったことを思い出す。
「おいおい!早く聞いとけよ!」
「アホか。下着覗き男に名前なんて教えてくれるわけ無いだろ?」
「いやいや、彩ちゃん。その後何も言われてないんだろ?先生とかに通報されてないってことはまだ脈あるんじゃねぇの?」
「なわけ。それに、どうせもう来ないだろ」
「ま、それもそうか〜。まっ、次があるさ!」
大介はバシバシと俺の背中を乱暴に叩く。
よし、気は楽になった。今日何もなかったし、言わないでくれたのだろう。
どうせ図書室にも現れないだろうし、気にしないことにしよう。
偶然が重なっただけだ。俺はそう思うことにした。
「………」
「………」
(なんでいるんだよぉぉぉぉ!?)
あーわからない。本当にわからない。
女っていうのはいつもこうだ。読めない。心が全くもって理解できない。男はいつの時代もこういう女に振り回されるのである。
昨日、あのようなことがあったのにもかかわらず、いつもと同じように、同じ席で彼女は本を読んでいた。
図書室に入ってきた俺を一目見るだけでなんの反応もない。
どうする…?ここは彼女のアクションを待つべきか?いや、まずは謝罪か?やはり誠心誠意謝罪するのは人として重要な事であるわけで…
「ねぇ」
「ひぃっ!」
「…失礼な反応ね?何?」
「あっ…別に何も…」
突然話しかけられ、変な声が漏れる。
「…まあいいわ。貴方、名前は?」
「…それは、俺を警察に突き出すため…とか…?」
「そんなわけ無いでしょ。別に気にしてないわ。でも、教えてくれないならそうなるかもしれないわよ?」
ど、どうやら最悪の事態は回避できそうだ。
「はじめ…まして?でいいのかわかりませんが…俺の名前は真城彩斗です…えーっと…」
「七瀬雫よ」
「七瀬…さん…す、ススステキナオナマエデスネ!」
「そう。ありがと」
俺がそう言うと、彼女は読書に戻る。ほっ…どうやら助かったようだ。
にしても、七瀬雫か…どこかで聞いたことある気がするが…どこだったっけ?
うーん……わかんね。まあいいか。今はここから生きて帰れることを喜ぼう。そう、俺は社会的な意味で生き残ったのだ。
今日はぐっすり眠れそうである。
俺はいつものように椅子を並べる。七瀬さんが本を読んでいるためカーテンは閉めれないので、窓に背中を向けて横になる。
そうして俺はいつものように意識を手放した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます