第2話 覗き魔な変態


「んぁぁ………あれ?」


 目が覚めると、昨日と同じ場所にまた人が座っていた。視線は下から上へと向かう。


 ニーハイで隠された真っ白な足と、そこから覗く白い絶対領域、発育がよくモデルのようなメリハリのある体、そして大人びた綺麗な顔…


 彼女と目が合う。


「…目は覚めたかしら?」

「……えーっと…何か御用で…?」

「……別に。どこで本を見ようと私の自由でしょう?」

「いや、まあそうだけど…」


 昨日と同じ言葉をかけられ、一瞬夢かと思ったが昨日とは違う言葉が返ってくる。


 どうやら夢ではなさそうだ。


 それじゃ、ほんとに読書しに来たってことか…?


 そう思うが彼女はこちらをじっと見つめている。


 なにか用だろうか?貸出の仕方は昨日教えたはずだけど…


「もしかして返却の仕方がわからないとか?」

「違うわよ」


 ふむ。どうやら違ったようだ。


 彼女は目を本に向け、ページをめくりだす。どうやら気のせいだったようだ。


「………」

「………」


 き、気まずい…!


 誰とどこにいようと寝ることで有名な俺でも、ここで横に寝るのは少々居心地が悪い。


 なにか会話でもするか?いやでも、話しかけるなオーラが凄い気がするな…いや、雰囲気で相手を判断するのはどうだろう?しっかり話をしてみないとわからないこともあるだろうし、よし、そうと決まれば何か…あっ、


「そういえば、昨日のあんたが言ってた…朽木糞牆?って、あー…あんまりいい言葉じゃないから使わないほうがいいと…思う…ぞ?」

「そう」

「………」

「………」


 続かない。というか続ける気がなさそうだ。


 こうなると俺にはどうしようもないので、諦めて寝ることにする。


 気にしているというわけではないが、人の前で寝そべって寝るのは流石に気が引けるので、机の上に腕を組み顔を突っ伏す。


 え?それだと変わらないだろって?いやいや、横になって寝るのとは大違い……


「……?」


 そうやって考え事をしていると、ふと視線を感じる。


 顔を上げると、こちらを見つめる彼女。


 俺が目を合わせると、何事もなかったかのように視線を本に落とす。


 気のせいか?そう思い突っ伏すと、また感じる視線。目を上げるとまた彼女と目が合う。


「………???」


 見ている。人前で寝る俺が奇妙なのか、それともやはり何か俺に用があるのか、理由は不明だが確実にこちらを見ている。


「………なぁ、なんか用か?」

「何もないわ」

「いや、でもさっきからあんたこっち見てるじゃん?」

「見てないわ」

「いやでも…」

「はぁ…どうやら、私は邪魔のようね」

「え?いや別にそんなことはないけど…」


 深くため息をついた彼女は、立ち上がり扉の方に歩いていく。


「…それと、私の名前はあんたじゃないわ」


 そう言い残し、彼女は昨日と同じ本を持ったまま、図書室から去っていった。


 気を悪くさせてしまっただろうか。いやいや、気にし過ぎだ。


 少々無神経が過ぎたかとも思うが、たまに授業すらサボってここで寝ているような俺に社会性を求めるなという話だ。呆れているような感じもあったし、どうせもう来ないだろう。


 そう思っていたのだが…


「………」

「………」


 何故来るんだ!?


 まるで当然のように、彼女は次の日も、また次の日もやって来た。


 彼女が図書室に訪れた日からもう一週間が経過したが、彼女は毎日のように図書室に現れるようになっていた。


 最近は俺よりも先に居るときもあるくらいだ。


 本を借りることも偶にあるが、大体は同じ位置で同じように本を読んでいる。


 とはいえ、もう一週間、俺も慣れたものだ。


 一切の会話もなく、無言の時間が過ぎる。


 何故かよく目が合うのだが、予想だがたぶん集中して本を読める場所が欲しかったのだろう。そして見つけたこの穴場にいる俺のことが目障りだから出て行ってくれないかな〜とでも思っているのだろう。


 だが断る。ここは俺の拠点だ。どこの馬の骨化もわからんやつにここは渡さん…!


 横になって寝ることももう気にしなくなった。


 机の下の絶対領域が目に入るが、この一週間でもう見慣れたもの…

 

(スパッツ…だと…)


 この一週間、見慣れた景色は黒い壁によって隠されていた。


 そこで、彼女と目が合う。彼女は俺の方を見て、ふっと嘲笑う。


 やばい。そう思い目を逸らすが、彼女はこちらに近寄ってくる。


 そして…


「────変態」


 彼女は俺の方を耳元でそう囁き、図書室をあとにした。

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