傍迷惑な忠誠心《ヘレス side》③

 『私の一番嫌いなタイプなんだが』と考えつつ、一先ず相手の反応を窺う。

別邸担当の使用人達も、じっと妻の様子を見守った。

祈るような……縋るような目を向けながら。

この場に張り詰めたような思い空気が流れる中、妻は小首を傾げる。


「いえ────彼らを庇う気はありません。どうぞ、お好きにしてください」


 心底どうでもいいといった態度で、妻は使用人達の期待を裏切った。

サッと血の気が引いていく彼らを前に、妻は近くの棚に手を置く。


「ただ、ここで処刑するのはやめていただきたいだけです。私は人の死んだ部屋で生活出来るほど、神経が太くないので」


 『あと、単純に人が死ぬところを見たくありません』と語り、妻は場所を変えるよう要請した。

と同時に、私は少しばかり目を細める。

面白い女だ、と思って。


 自分の部屋を他人の血で汚されたくない気持ちは分かるが、この場面でそれを主張出来るやつはそうそう居ない。

私が相手なら、尚更。


 『肝の据わった女だな』と感じつつ、私は剣を握り直した。

もう一度、振り上げるために。


「そうか。なら────本邸に行け」


「はい?」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔でこちらを見つめ、妻は戸惑いを露わにする。

動揺のあまり目が点になる彼女の前で、私は剣を大きく振りかぶった。


「今日から、そこが貴様の家だ」


 『よって、場所の変更はしない』と告げ、私は視界の端に金髪を捉える。


「おい、連れていけ」


 妻を本邸まで案内するよう命じると、ロルフは困惑気味にこちらを見つめた。

『本当にいいのか?』とでも言うように。

なので小さく頷いてやれば、彼はようやく妻の方へ向き直る。


「奥様、こちらです」


 そう言って出口へ促すロルフに、妻はおずおずと首を縦に振った。

かと思えば、おもむろに歩き出す。なんだか釈然としない様子で。

『一体、何がどうなっているの?』と思い悩みながらこの場を後にする彼女の前で、私は


「では、仕切り直しと行くか」


 と、何の躊躇いもなく剣を振り下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る