傍迷惑な忠誠心《ヘレス side》②

「つまり、貴様らの忠誠心とは私の命令を無視して公爵夫人を虐げ、我が家の金を使い込むことなんだな?」


 先程より数段低い声で問い、私はスッと目を細める。


「悪いが、私はそんな傍迷惑な忠誠心求めていない」


 『不要だ』と宣言し、私は鞘から完全に剣を出した。

すると、別邸統括侍女が恐怖のあまり涙を流す。


「お、お許し……お許しください……今後はきちんと働きますし、お金だって返しますから……」


 頭を抱え込む形で蹲り、別邸統括侍女は後ずさった。

剣を抜いたからかすっかり怯え切っている彼女を前に、私は自身の顎を撫でる。


「貴様らのような不穏分子をわざわざ、生かす理由がない。むしろ、見せしめとして殺した方がずっと有益だ。きっと新しく揃えた駒達は貴様らの末路を聞いて、誠心誠意レイチェル・プロテア・ラニットに仕えるだろうからな」


 『人の振り見て我が振り直せ』という異国の諺を提示し、私は彼女の横へゆっくりと足を運んだ。


「新人教育の礎となれるんだ、これ以上名誉な死はないだろう。ラニット公爵家に忠誠を誓う貴様らなら、尚更」


 『意義のある死であることを喜べ』と言い、私は別邸統括侍女の方へ向き直る。

手に持った剣を構えながら。


「さあ、その命を私に差し出せ。無論、拒否権はない」


 淡々とした口調で死刑宣告を行い、私は剣を振り上げた。

その瞬間、ハッと息を呑む音と小さな悲鳴が木霊する。

誰もがもう決定は覆らないことを悟る中、一人の女が


「────お待ちください」


 制止の声を上げた。

と同時に、私は身動きを止める。


「レイチェル・プロテア・ラニット、何のつもりだ?まさか、こいつらを庇うのか?」


 声の主である妻に視線を向け、私は『お人好しにもほどがあるだろう』と呆れた。

なんせ、あちらは悪意を持って妻に接していたのだから。

その上、彼女の名前を使って散財までしている。

助ける価値があるとは、思えない。


 温室育ちの娘だから、『世の中には、矯正出来ない悪人が居る』という事実を知らないのか?

人間話せば分かり合える、と本気で信じているアホじゃないよな?

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