別邸《ヘレス side》②
「あれだけ金を渡したのに、内装すら整えていないのか?」
『一体、何に金を使ったんだ?』と訝しみつつ、私は歩を進める。
『一先ず、妻の部屋へ向かおう』と思い、中央階段を上がった。
一階と同様どこか小汚いフロアを前に、私は小首を傾げる。
レイチェル・プロテア・ラニットの世話が大変で、通常業務をこなせていないのか?
『なら、人員を補充するべきか』と悩みながら、私は奥へ足を運んだ。
その間、使用人と出会すことは一度もなく……ついに妻の部屋へ辿り着く。
別邸担当の者達はどこに行ったんだ?いや、今はそれよりも
「────レイチェル・プロテア・ラニット、貴様に話がある」
妻の散財を諌める方が先だ。
勢いよく扉を開け放った私は、ロルフと共に中へ足を踏み入れる。
と同時に、目を剥いた。
この部屋もまた、数ヶ月前と変わらない様子だったから。
多少生活感はあるが、到底公爵夫人の暮らす空間とは思えない。
『一体、どういうことだ?』と思案しつつ、私は室内を見回す。
すると、目当ての人物を発見した────のだが……
「死んでいるのか?」
妻はベッドで横になったまま動かない。
『眠っている』と表現するにはあまりにも静かすぎる彼女に、私は頭を捻った。
その瞬間、妻が目を覚ます。
「いえ、生きています。ちょっとお昼寝していただけです」
『お騒がせしました』と謝り、妻はゆっくりと身を起こした。
かと思えば、真っ直ぐにこちらを見据える。
「それで、お話というのは?」
「これだ」
念のため持ってきた例の申請書類を突き出すと、妻は少しばかり身を乗り出した。
内容を確認しているのか暫し無言になるものの、意味を理解するなり嘆息する。
心底、辟易した様子で。
「信じていただけるか分かりませんが、それは私の書いた書類じゃありません」
額に手を当ててフルフルと首を横に振り、妻は身の潔白を訴えた。
と同時に、私は一つ息を吐く。
「────やはり、そうか」
「「えっ?」」
思わずといった様子で声を揃える妻とロルフは、大きく瞳を揺らす。
まさか、彼女の証言を信じるとは思わなかったのだろう。
「言っておくが、貴様を信用している訳じゃない。ただ、別邸の状態と使用人の様子を見て合理的に判断しただけだ」
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