別邸《ヘレス side》③

「言っておくが、貴様を信用している訳じゃない。ただ、別邸の状態と使用人の様子を見て合理的に判断しただけだ」


 『勘違いするなよ』と釘を刺しつつ、私は金髪の男へ視線を向けた。


「ロルフ、別邸担当の使用人を一人残らずここへ連れてこい」


 ────と、命令した二時間後。

ようやく、役者が揃った。


「全く……屋敷の敷地内で怠けるどころか、堂々と街へ出て昼から酒三昧とは一体どういう了見だ」


 これでもかというほど苛立ちを露わにして、私は別邸担当の使用人達を睨みつける。

職務怠慢などと言うレベルじゃないぞ、と。


「も、申し訳ございません……!でも、これはその……レイチェルお嬢様が『休んでいていい』と仰って……!だから……!」


 別邸統括侍女はこの期に及んで責任転嫁を行い、『お許しください!』と懇願してきた。

すると、妻が片手を上げてこう言う。


「いえ、そんなことは一言も言っていません。というか、初日以降ロベリア達とまともに顔も合わせていませんし」


「……なんだと?」


 ピクッと僅かに反応を示し、私は眉間に深い皺を刻み込む。

こいつら主人の世話すら放棄していたのか、と憤って。

もし、ちゃんと世話していたなら『顔も合わせていない』という言葉は出てこないだろうから。


「舐められたものだな」


 妻を軽んじるのは、その夫である私を軽んじるのと同じ。

それに、これは命令違反だ。

こちらは誠心誠意レイチェル・プロテア・ラニットに仕えるよう、指示していたため。


「……使用人の態度は旦那様の差し金じゃなかったのね」


 妻は激怒している私を見て、パチパチと瞬きを繰り返した。

『これは予想外の展開』とでも言うように驚いている彼女を前に、私は青筋を立てる。

こんな陰湿でくだらないことする訳ないだろう、と腹が立って。

『第一、そこまで暇じゃない』と思いつつ、私は冷めた目で使用人達を見下ろす。


 それもこれも全て貴様らの独断のせいだ。


「全員、打首にする」

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