案外悪くない②
「あら、体も軽いわ」
『寝たおかげで、体調が回復したのね』と思いながら、私はクローゼットへ駆け寄った。
そこで適当にドレスを選ぶと、昨日と同じように着替える。
さてと、早く仕事に戻らなきゃ。丸一日、眠っていたことでまたかなり書類が溜まって……
「────って、もう私はラニット公爵家の人間だから関係ないのか」
姉の問題行動の対応に追われる両親に代わり、領地経営や屋敷の管理を行うようになって早数年……私にも、羽を休める時が来たようだ。
まあ、公爵夫人の仕事を任せられる可能性があるので、のんびり過ごすことは出来ないかもしれないが。
でも、現段階で重要な案件を押し付けられることはないだろう。
『せいぜい、書類整理くらいじゃないかしら?』と考えつつ、私はソファへ腰を下ろす。
何もすることがない……これって、とっても────素晴らしいわね。
だって、時間に追われることも姉の問題行動に頭を悩ませることもないのだから。
忙しなく過ぎていった実家での日々を思い返し、私は『ふふっ』と笑みを漏らした。
だって、あまりにも違いすぎて。
昨日まではこの婚姻を少し後悔していたけど、案外悪くないかもしれない。
冷遇こそされているものの、直接的な暴力や嫌がらせはないし。
身の回りのことさえ自分で出来るようになれば、天国なのでは?
『慣れるまで大変だろうけど、仕事より楽な筈』と思い、私は表情を和らげた。
これから始まる楽しい生活に、思いを馳せて。
「まずは料理でも練習してみようかしら?」
『ちょうど、朝食にしようと思っていたところだし』と考え、私は席を立つ。
上機嫌で廊下へ出た私は、厨房を目指して歩き出した。
と言っても、どこにあるか知らないが。
『でも、探検みたいで楽しい』と浮かれながら、私は屋敷内を見て回る。
その際、仕事をサボっている使用人を何人か見掛けたものの……スルーした。
どうせ、何を言ったって変わらないだろうから。
『関わるだけ、時間の無駄』と捉える中、お目当ての部屋を見つける。
「人は……居ないみたいね」
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