結婚①
「────伯爵家の次女レイチェル・プロテア・フィオーレとの婚約だ」
今度は私に白羽の矢が立ったことを語り、父はそっと目を伏せた。
喜んでいいのか、どうか分からないのだろう。
駆け落ちした姉の代わりに嫁ぐなんて、先行き不安でしかないから。
『そこら辺の仮面夫婦より、冷め切った関係になるでしょうね』と考える中、父は顔を上げる。
「詳細はまだ何も決まっていないが、あちらはレイチェルとの婚約を承諾してもらえるなら条件はクラリスの時と同じでいいと言っている」
つまり、予定通り援助を受けられる訳ね。それは有り難い。
『無事に今年の税金を収められる』と胸を撫で下ろし、私は肩の力を抜いた。
と同時に、父が表情を硬くする。
「これらを踏まえた上で、レイチェルの意見を聞かせてほしい」
『感情面も含めて』と申し出る父に、私はそっと眉尻を下げる。
もし、ここで『嫌だ』と……『嫁ぎたくない』と言えば、お父様とお母様はそうするでしょうね。
良くも悪くも、お人好しだから。
でも、今回ばかりはその優しさに甘えちゃダメ。
『相手方と和解出来なければ、こちらは……』と危機感を抱き、私は覚悟を決めた。
父譲りの金眼に、確固たる意志を宿しながら。
「本当にお姉様の時と同じ条件でいいのなら私は嫁ぎたいです、ラニット公爵家に」
────と、答えた数ヶ月後。
私は無事にラニット公爵家と婚約を結び、結婚式へ漕ぎ着けた。
目の回るような忙しさだったわね……お姉様の捜索で疎かになっていた仕事と、結婚の準備を同時に進めていたから。
正直、過労と睡眠不足で何度か倒れそうになったわ。
だけど、それも今日で終わり。
化粧台に取り付けられた鏡を見据え、私は綺麗にまとめられたピンク髪や純白のドレスを捉える。
『化粧のおかげで、顔もそれなりになったわね』と観察する中、不意に控え室の扉をノックされた。
「新婦様、お時間です」
扉越しに女性の声が聞こえ、私は慌てて席を立つ。
「今、行きます」
そう声を掛けてから、私は出入り口の方へ駆け寄った。
と同時に、扉を開ける。
すると、式場のスタッフと思しき女性が胸元に手を添えて一礼した。
「では、参りましょう」
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