第10話 登城
ツクモ達が初心者ダンジョンの向かうのを見送ると、マクスウェルは王城に登城する準備を始めた。
勲三等の青い法衣を纏い、髪を梳かし。最低限の身なりを整える。王族は多少の無礼を笑って許す懐の広い人たちばかりだ。
遠い昔に下賜された聖樹の枝で作られた杖を持ち、王城へ転移できる部屋と向かう。少し寝不足だったが、クマは出来ていない事は鏡で確認済みだ。
転移部屋の鍵を開け、魔法陣の上で魔力を練る。王城の一室をイメージしながら一瞬で飛ぶ。転移酔いに少し吐き気をもようしたが、グッと飲み込む。朝食を抜いてよかったと思う。
王城の一室から出ると見張りの兵士に王への謁見を要望する。すぐさま近衛の上司の元に向かった兵士の姿を見届けると、城の中庭の庭園へと向かった。この時間帯なら王女が散策しているはず。
「ごきげんよう、マクスウェル導師。しばらくお顔をお見せになられませんでしたが。具合でも悪いの?王付き医師に診てもらう?」
「これはこれはマリアメール王女。あるがとうございます、体は大丈夫ですよ」
「なら何故?」
「この数日の事、その旨、王に謁見を申しあげました。王女様もどうかご同席くださいませ」
「なにか重要な事なのね、分かったわ」
十代前半の騙しやすい年頃の子だ。上手く踊ってくれよと、心の中で呟くとゆっくりと謁見の間に向かう。途中で近衛兵士に王が承諾されたという旨を聞き。謁見の間の前室で執事の淹れた紅茶を飲む。
謁見の間に通され、膝を着き杖も地面に置いて王を待つ。
やがて、謁見の間の奥から現れた王はマクスウェルの姿を見て驚いた。それは、罪を裁かれる者がとる礼の形だったからだ。
「ボルサーナ=マクスウェル、どうしたのだ!」
名前を呼ばれ、少し顔を顰める《しか》自分の名前が好きでは無いからだ。顔を伏せていたので王に気付かれる事はなかった。
「メリサウス=フィア=ノビアス陛下。私は大罪を犯しました。どうぞ細首そっこく撥ねて頂ければと!」
大声で大切な家臣それも重役の導師がイキナリ自分の首を斬れと言う、王が混乱するのも当然と言える。そばに控えた王妃も王女も口に手を当て驚愕の表情だ。
「なぜだ、ボルサーナ!どのような大罪を犯せば余が断罪するというのか!」
掛かったと、胸の中で呟く。一世一代の大芝居に勝った。
「そうです!マクスウェル導師!どのような罪を犯させばそのような結論にいたるのですか!」
王女も同調する。謁見の間に居る皆がマクスウェルの罪を聞きたいと騒ぎ始める。
「私は、私はこの世界の深刻な魔力不足を解消する為!独断で異世界勇者召喚の儀を執り行いました!」
悲痛な叫びに聞こえただろうか?震える声は笑いを堪えるためだたと気付かれないだろうか?そんな不安を全く覚えていない懺悔に、一転して謁見の間は静寂に包まれた。
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