第11話 裏工作
「それはまことか?」
十の数を数えた後、王はマクスウェルに問いかける。
独断で勇者召喚など王権を無視した大罪。国家反逆罪だって適用されるだろう。裁判も無く例外なく極刑。
「この世界の魔力量が枯渇寸前なのは紛れもない事実。そのままでいたらば動植物にどのような影響が有った事か、出過ぎた事とはいえ英断であることも事実。過ぎた事は仕方ない……。それで勇者殿は今いずこへ?」
「ダンジョンにて戦闘訓練を」
「平和の世で武は不要。勇者殿には穏やかんな日常を過ごしていただこう」
「は!」
王の命に近衛兵長が返礼する。
顏を伏せたままマクスウェルは呻く。それではダメだ。王国に混乱を、世間に憎悪を、退屈な日常に刺激を、長すぎる寿命を燃やし尽くすほどの戦火を、とただ願う。平和の世は私の心を腐らせる。
「王よ、一つ提案があります。よろしいですか」
「なんだ、ボルサーナ。直答を許した覚えは無いぞ?」
「異界の勇者と王女の婚約を愚考いたします」
「……。なるほどそれも妙案よな」
異世界の勇者の優秀な血を王族に入れる事が出来る。勇者は王国の庇護が受けられる、ノビアス王国はますます発展を遂げるだろう。
そんな事、もし実現をしたら異界の勇者であるツクモに恋するマコトは怒り狂うだろう。マクスウェルが開いた扉から現実世界に戻りこの日本とノビアス王国間で戦争を始めてしまうかもしれない。噂に聞く自衛隊とノビアス王国魔法騎士団。
それが最速の方法。だが、実現はしないだろう。せいぜいそれまでこの世界に悪意の種を植え、混乱を与えよう。
「確かに一考する余地があるな。ボルサーナ、勇者殿と近々会わせてくれ」
「拝命いたしました」
「ボルサーナの独断を王命として不問に処す。異論はないな!」
謁見の間の沈黙は肯定だった。勇者召喚の儀の独断は各国の情勢に波紋を呼ぶが、それもマクスウェルの計算の内である。
分のある賭けとはいえ、自分の命を秤にかける事に少し濡れてしまった。
「マクスウェル導師、勇者様はどのような方ですか?」
思いの外食い付いてきたな、などと言う考えを顔に出さず端的に述べる。
「王女殿下と同じ世代でしょうか、顏は凡庸なれど、その体は鋼の如く。しなやかな肉食獣を想起させますな」
「怖い方なのですか?」
「いえ、あれは根っから守る者の顔です。懐に入れば、この上なく安心でしょう」
「そんな、懐なんて……」
何を考えてるが知らんが、マコト君の美貌は君より勝ってるよ。せいぜい自分を磨くことだなと、そっと嘲る。
王様に会わせるのは予定通りだが、なかなかうまくいかないものだ。それもまた一興と、ご機嫌な足取りで王城の一室へと歩き始めた。
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