第5話 観測者理論

 マコトの検査が終わるまで、未確認飛行物体について説明を受ける。


「あれは、地球の座標固定転送装置でね。観測者に近づいて存在が確定する装置なんだ。それで現地人を釣るのが目的」

「は?」

「君たちの世界では量子力学で有名なシュレーディンガーのネコという思考実験があるよね。ざっくり、言うと観測するまで猫は半分生きてて、半分死んでいると云う。ミクロの世界とマクロ世界の認識を問いかける思考実験だ」

「観測する事で状態が確定って奴だろ?それがなんで釣れるんだ?」

「その意見も最もだ。これを私は観察者理論と提唱しているのだが、例えば物語という重力に引き込むのさ。そう異世界召喚に遭遇した小説の主人公のようにね」


 マクスウェルの謎理論から産まれた発明品で異世界に通じる穴を開けるための装置を観測する人間が必要だったとマクスウェルは云う。その目的は地球の人間を捕まえる事によっての枯渇した世界への魔力の流入。


「地球は希少な世界でね。転生、転移、異世界に移動するだけでも莫大な魔力を得る事が出来る。だから、他の異世界は地球の人間を自分の世界に呼び寄せているのさ。そう意味で観測者座標固定は大成功だった」

「……まるで釣り堀だな」

「でも転生した先で特典が貰えたりするらしいじゃないのか?神とやらが恩恵を与えるだろ?」

「で、俺達も貰えたりするのか?」

「君たちのは実験体だからね、無いよ」

「マッドサイエンティストに捕まった時点で気付くべきだったな」


 そうしている内にマコトの検査が終わった。次はツクモの番だ。ゴーレムと言うか人型ロボットの指示に従い検査器具に入る。


「うん、マコト君の検査の結果は良好。病気の心配も臓器の不具合もないね。ウイルスも腸内菌も問題ない。一応、こっちの世界のウイルス抗体を作るお薬出しとくね」

「飲み薬なの? 注射じゃなくて」

「それはナノマシンの塊のカプセルでね。胃から全身に行き渡る仕組みだよ。注射だと量の問題があるのさ」

「副作用は?」

「これと言って無いけれど、地球の人間にはある副作用が出る可能性がある。魔法が使えるようになるとか……。ね」

「早く言ってよ! そう言う事は!」


 躊躇ちゅうちょなくカプセルを口に入れるとカップに入ったお茶を飲み干す。地球の人間にとって魔法は完全なフィクション、それが使えるなら例え毒薬だったしてもマコトは本望だっただろう、きっと。多分。


「どんな魔法が発現しても、しなくても恨まないでくれおくれよ?」

「なんか体が熱くなってきた……」

「眠いなら寝たらいい。体が馴染むまでしばらくかかる。その頃にはツクモ君の検査も終わるはずだよ」


 椅子に座ったままマコトは眠ってしまった。ツクモは検査器具の中で外の様子が分からないでいた。


「本当に馬鹿な子。何も知らないままと眠るいい」


 酷薄な笑みを浮かべ、マクスウェルは嗤う。マコトに言ったことは半分本当で半分嘘だ。確かに魔法を発現させるにはカプセルを飲むしかない。しかし、注射でもウイルスの抗体は作られる。人のことを道具のしか見ていない姿は本人が言ったように確かにマッドサイエンティストそのものだった。







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