第3話 マッドサイエンティスト

 ツクモの意識が戻ったのは固い金属製のベットの上だった。これで裸で縛られていたら解剖されていそうな恰好であった。


「おや、起きたかな」

 

 体の異常を確かめ、瞬時に動けることを確認すると、声の主の方を向いた。


「誰だ、アンタ」

「自己紹介かい? そうだねそれが正しい手段だ。私はマクスウェルという」

「俺は近藤九十九こんどうつくもだ」

「君はなかなかに冷静だねぇ」


 相手が女性体だと認識して、少し警戒レベルを下げるが、組み伏せようとすれば出来るよう準備する。まだ無事を確認出来ないマコトの事考えて、まずは自己紹介する。


「私の職業は……。そうだなあぁ、錬金術師、神秘学者、歴史家、数学者、発明家を混ぜたものだと思ってくれればいい」

「それだと科学者にならないか?」

「科学は決められたルールを解明する職業だ。私の説明には不要だよ」

「話が見えない……。ここはどこで何の場所だ」

「処置室が適正だろうね。君の事を看病?していた」

「なんか、胡散臭いなアンタ」

「よく言われるよ」


 銀髪に浅黒い肌、青い瞳にメガネ。白衣を着ているためか科学者、あるいは医者を思わせる知的雰囲気。メガネの奥の目は今も興味津々にこちらを見ている。


「そうだね、君たちの認識。ああ、これは俗称地球の知識に当てはめてみるとダークエルフといったところかな」

「え、えぇぇぇ……。またファンタジーな単語が出て来たな」

「長命で歳を取らず、耳の先が長い、浅黒い肌の人種を他に何と云うのかね?」

 

 確かに外的要因を当てはめてみるとダークエルフだった。


「君、地球での異世界という世界が未来に時間を進めたら、科学を手に入れ進歩するものだと考えたことはないのかい?」

「え、そうだな。確かに中世ヨーロッパ的な文化が異世界モノの王道だと思う」

「そうだろう。そうだろう。だから、私はダークエルフでありマッドサイエンティストという立場なのさ」


 今、不穏な単語を聞いた気がする。


「なんだって?」

「マッドサイエンティスト」

「マ?」

「マジだとも」


 最悪だ、解剖される。


「安心したまえ君は貴重な実験体。解剖は最後の最後だよ」

真琴まこと。もう一人の人間をしらないか?」

「ああ、彼なら別の部屋で休んでいるよ。私の知識ではおおよそ判断しかねる事態でね」

「どお云う事だ。マッドサイエンティストほどの知識の持ち主が判断しかねる事態って」

「君にも見てもらった方が早いだろうね。ついてきたまえ」


 靴は無いが裸足で金属製の床に立つと、ヒヤリとした感触が無かった。


「ん? なんだこれ?」

「ああ、熱伝導率が変わっていてね。冷たくならないんだよ」

「そうなのか……」

「まあ。この世界の事はおいおい話すとして今はマコト君のことだ」

「あぁ、分かっている」


 ツクモは黙ってマクスウェルの後を着いて行った。

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