第2話
「マダム・レースはこんな家に住んではいないだろう」。私はまた考えた。
こんな家とは、ダイニング・テーブルに子ども達が食べたヨーグルトの容器が置き去りにされ、ソファは斜めになり、絵本と積み木が床に積まれ、キッチンにはパン屑が乗ったお皿が洗われるのを今か今かと待っている我が家の事だ。玄関の靴は台風でも来たかのような荒れ具合。そして朝からユーチューブに夢中になる二歳と、買い物を終えてぐったり横たわる母親。こんな家にはマダム・レースはきっと住んではいないだろう。
マダム・レースが住む家はきっとどこもかしこも片付いていて、家具達は美しく磨き上げられ、陳列された小物達は自分がマダム・レースの持ち物であることを誇りに思っているだろう。
間違っても、「まだ入るからいいや」とゴミの日をスルーする、なんてことも、マダム・レースにはないだろう。
もしもこの家にマダム・レースをお誘いする事になったら?
私は今から立ち上がってお皿を洗い、落ちているオモチャを棚に戻しソファの位置を調え、ダイニング・テーブルに花を飾って紅茶の準備をするだろう。
そうしてチャイムが鳴ってから玄関を片付いていないことに気付き、玄関ドアーの前でマダム・レースを三分ほど待たせてしまうだろう。
それでもマダム・レースはいつもの微笑みで、「本日はお招きありがとう」と手作りケーキの入った箱を差し出してくれるだろう。
今日これからマダム・レースが家を訪ねてくることは決してないけれど、私は今から立ち上がり、私なりに、この家を調えていくことにする。
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