笑顔

第14話

「うわあああ」


 悲痛な大声によって美保奈は目を覚ました。多くの妖怪たちが地に伏せていた。その中に、すがるような目で命乞いする妖怪たちを冷たく見下ろしているものがいる。美保奈はそれが眼帯の男だと一瞬分からなかった。自分の知る姿とあまりにもかけ離れていたためである。


「あ……」


 美保奈の出したそのか細い声を拾ったのか、眼帯の男は美保奈の方へと目を向けた。美保奈と眼帯の男の視線がかち合う。その瞬間美保奈の頭に、ある記憶が流れ込んできた。




 いつかの日本のどこかの村。片目が不思議な色をした幼い少年は、自分の片目玉はトカゲを助けた礼にもらったといった。少年は優しい家族のもと、貧しくも幸せな暮らしをしていた。しかし、美しい目の少年を疎ましく思った長者の子どもにより、少年は目をつぶされたうえ殺されてしまう。その後村では凶事が続いた。そしてその際、必ず片目のトカゲが目撃された。トカゲの神に愛された子どもの恨みを恐れた村人たちは、子どもを供養するために社を建立し祀る。トカゲの神に愛された子どもの心は安らぎを取り戻し、凶事はピタリとおさまった。




「っ……!」


 美保奈は流れ込んだ記憶を追体験しながら涙を流していた。それが眼帯の男の記憶だとすぐに分かったからである。これほどの苦しみを受けながら、それでも人間を好むと言った眼帯の男の心を思うと、美保奈は切なさに胸が壊れるほど痛む思いがした。そしてこれからは悲しい思いをしてほしくないと強く感じた。美保奈の体は考えるよりも早く動き、眼帯の男を正面から抱きしめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る