第12話

「これは……」


 眼帯の男が美保奈のいない部屋に戻った時、部屋にあるあらゆるものが泣いていた。花瓶、掛け軸、障子、棚……それら全てがしくしくとすすり泣いていた。


「お前達、泣いているだけじゃ分からんぞ! 一体何があった!?」


 皮手袋の問いかけに花瓶が答えた。


「あたしたち止めたんだよオ。でもあの子、聞こえないみたいで……」

「連れ去られちまったよオ。でっかい毛むくじゃらが抱えていったんだ」


 花瓶に続いたのは掛け軸だった。眼帯の男はゆっくりと数回瞬きした。


「たぬきか、狐か……いや、関係ないな」


 静かに一歩、眼帯の男は床の間へ踏み出した。その瞬間、もの達の泣き声がピタリとやむ。


「あの子を傷つけるものは消すのみだ」


 更に数歩進んだ男は刀掛けの太刀を手に取ると、流れるような動作で帯刀した。眼帯の男は瞳に真っ赤な怒りを湛え、早々に屋敷を出ていった。

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