約束

第11話

美保奈はおとなしく眼帯の男を待っていた。ほどなく美保奈の耳に扉を叩く音が聞こえてくる。眼帯の男かと思った美保奈は扉に近づいていった。


「はい。えっと、どなたですか?」


 揺れのこともあり、美保奈は一応と思ってそう問いかけた。返事をしたものは幼い少女の声をしていた。


「どうかこの扉を開けてください。母のもとへと帰りたいのです」

「え、えっと……」


 ノックの主は泣きながら何度も懇願した。曰く、美保奈のいる部屋にある隠し通路を通れば、すぐに母の側に行けるのだという。美保奈は腕を組んで考え込んだ。恩人である眼帯の男との約束を破るのは気が引ける。しかし泣いている少女の願いを無視するのも心が痛む。


「う、うーんと……」

「どうかどうか、この扉を開けてください」

「うう……」


 結局美保奈は扉を開けてやることにした。良心の呵責に耐えきれず、また扉を開けるだけなら部屋から動いたことにはならないと思ったからだった。美保奈は扉の取っ手に手をかける。


「今開けま」


 美保奈が少しだけ開けた扉の前には、天井まで届くほどの大きさの、真っ黒な毛玉のような妖怪が立っていた。美保奈が驚きに声を上げる間もなく、毛玉は美保奈を抱えて部屋を後にした。

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