第10話
「どれ、お菓子を持ってこよう」
「あ、お構いなく……」
屋敷へとたどりついた眼帯の男は、美保奈を客間に通すとスッとどこかへ消えた。と、次の瞬間には手にウサギや猫など動物を模した和菓子を持って現れた。瞬間移動のような男の様子に驚くやら、かわいらしいお菓子に心躍るやら……美保奈の心情は忙しかった。香のにおいは相変わらずだったが、不思議と昨日より美保奈の意識ははっきりしている。
「ああ、おもちゃも持ってこよう」
「え、おもちゃって……あ、お構いな」
またも男はどこかへ消えると、一瞬で現れた。眼帯の男は手に雷神のフィギュアのようなものを持っていた。美保奈がその精巧な作りに感心していると、男はフィギュアをついと指ではじく。はじかれたフィギュアは動きだし、フィギュアの周りに雷を起こした。その不思議なありさまに美保奈は目をキラキラと輝かせる。ふと顔を上げた美保奈は眼帯の男と目が合った。これ以上ないほど優しい瞳で微笑んでいる眼帯の男に、美保奈は胸がキュッとなる。
「あの……どうしてこんなに良くしてくれるんですか?」
美保奈は思ったままを眼帯の男に問いかけた。眼帯の男が口を開く前に、男が付けている皮手袋から声がした。
「主様は人間を大層好いていらっしゃるからな」
「そう、なんですね」
その答えに美保奈はちくちくした胸の痛みを感じた。俯く美保奈の頬に、眼帯の男はそっと……手袋をしていない方の手を添えた。
「私が人間を好んでいるのは確かだが、お前をもてなすのはお前が私にとって特別だからだよ」
眼帯の男は優しく告げる。真っ赤になる美保奈を眼帯の男は愛おしそうに見つめた。瞬間、屋敷が地震のような揺れに襲われた。美保奈は体を縮こまらせる。
「お前よ、しばらくここで待っていなさい」
「え、え?」
言うが早いか、眼帯の男は静かにどこかへ歩いていった。
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