第11話 僕は

「「は?」」


 僕らは瑛の連れていた女性、エリシャさんに顔を向ける。


「やはりそうであったか......。」

「やはりって何のことだ。説明しろ、エリシャ。」


 セーラさんが言うと、エリシャさんは苛立ちを隠せていない様子で語り始める。


「女王は、城に攻めてきた反ヴェルゼンテア軍の攻撃で亡くなられた。しかし、軍の中の特異魔法使いによって現世こっちと考えられます。おそらく私もそうでしょう。そして、私はそうでも無いようなのですが、どうやら女王の方は記憶に障害が生まれている様子であります。」


 エリシャさん以外の三人は、よく分からない様子で黙って話を聞き続ける。


「これはあくまで私の考察に過ぎないのですが、女王は幾つもの時代の人物の記憶が混ざり合っている状態なのではないのでしょうか。」

「何を言っているのだ?」


 セーラさんが低い声を上げて、エリシャさんに尋ねた。


「私の知っているアリス女王の容姿は、今、此処に居る女王と全く同じ容姿。つまり、貴方様の前世の姿、ということです。私の容姿も、私の前世と考えられる頃と同じものです。」


 少し理解できた。

 セーラさんの容姿は、セーラさんの前世と思われるアリス女王のものということらしい。


「では、セラフィナ・ルミナシアの名は私のものではない、と。」

「はい。昔読んだ歴史書に、このような事が記されていました。」


 僕らはエリシャさんから告白された衝撃の事実から耳を話せない。

 顔を更にぐいっと近づけて話を理解しようと必死になる。


「およそ三世紀前、セラフィナ・ルミナシアという名のとてつもない雷魔法と霧魔法の才を持った平民がいた、と。その平民はその才を認められ、王直属の護衛として生涯を全うしたとのことでした。」

「それではエリシャ。それはつまり私と同一人物の可能性があるのか?」


 真剣な顔でセーラさんが再び尋ねると、エリシャさんが続ける。


「はい、おそらく。そして女王が先程使用しようとして失敗した『ファントムフォグストライク』。これは七世紀前、名を明かさなかった霧魔法の始祖が使用した魔法なのです。そして女王の連れていたそこの男。お前も転生してきた人物なのではないか?」

「えっっ、僕!?」


 急に僕に焦点を向けられてしまった。

 驚いて無意識に後ずさってしまったが、エリシャさんはそれを気にしていない。


「そう、お前だ。霧魔法の始祖が一生の内、愛した男性が一人だけいた。その人物の顔が、お前と全く同じなのだ。」


 そんな事を急に言われても簡単に頷けるわけがない。

 そして僕の頭に一つの疑問が浮かぶ。


「どうして七世紀も前の人物の顔をあたかも知っているかのように話しているのですか?セラフィナさんからは、貴方の世界に過去の人物を写すようなカメラは無いと聞いていたんですが......。」


 エリシャさんは戸惑うことなく返答する。


「私もその時代に生きていたからだ。」

「え?」

「言葉の通りだ。私もその時代に生きていた、だから七世紀前の人間の顔が分かるのだ。つまり、私の記憶の内では、私は人生三周目。お前は様子を見る限り二周目といったところか。」


 意味がわからない。僕が人生二周目?前世の記憶なんて存在するわけ無いじゃないか。


「そして、七世紀前に生きていた女王は愛人、つまりお前の前世の人間と生まれ変わっても必ず結ばれるよう神に祈り息絶えたらしい。それは前世の私も同じであった。前世の私は瑛さんの前世の人間と永遠の愛を誓った。」

「俺まで!?」


 ついに前世の瑛まで登場してしまった......。


「そして私はこの世界に特異魔法使いの雷と一緒に転生してきたのであります。」


 もしかして......。


「セーラさん、一週間くらい間の大雨の日、大きな雷が落ちましたよね。あれって......」

「確かに......。あんな雷、普通は落ちませんし、偉於の考えは正しいかも......」

「おそらく間違っていないでしょう。私が転生してきた時期もその頃。大雨でした。そこで、雨の中一人彷徨っていたのです。そして次の日の朝、瑛さんに救っていただいたのです!」


 瑛が「お、おう」と照れているのを、エリシャさんはニヤニヤと見つめる。

 だがすぐにテンションを戻して続ける。


「私が転生先のこの世界で瑛さんに出会えた様に、女王がその男と出会えたのは運命だったのでは無いだろうか。」


 その言葉で、僕が今までセーラさんに感じていた運命のようなものが、本当に運命だったのだと分かった。


「そしてこれを整理すると

 女王だったという記憶と容姿は前世のもの。

 セラフィナ・ルミナシアの名は前前世。

 そして、その男と約束を交わしたのは前前前世。

 ということであります。」


「なぁ瑛。僕、どこかで聞いたことがあるような歌詞が浮かんできなんだが......」

「あぁ、俺もだ......。」


 つまり......


 前前前世から僕は、セーラさんを探し続けていたのだ。

 

 生と死の間から。

 僕達が出会える運命を求めて。

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