第10話 女王の名
「そういえば朝、僕が家を出た後にどこか出かけましたか?」
「どうしてですか?別にどこにも出かけてませんけど......」
やはり瑛が出会したという厨二病にセーラさんは関係ないらしい。
「なにかあったんですか?」
セーラさんが訊いてきたので、瑛が離してくれた人間について話してみた。
「あっ、えっと......、今日はそんな人見てませんね。だいたいそんな人を見かけたら絶対に忘れないと思います」
「そうですか......。」
「あのー、その人、どこに居たとか分かります?」
なんでそんな事が気になるんだろう。でも、瑛の通学路に居たということしか僕は知らないし、だいたい瑛の通学路がわからない。
「って訳なので、どこに居たかはわからないんですよ。すみません。」
「良いんですよ!ちょっと気になっただけなので......」
彼女の顔が若干険しくなった気がした。
◇
あれから数日。一週間頑張った僕はセーラさんと近くのスーパーに買い物に来ていた。
「なにか作って欲しいものはありますか?......って、毎日言ってますけど、わからないですよね」
僕は、苦笑いをする。すると彼女が珍しく声を上げる。
「わたし、動画を見たんです。あの何でしたっけ......?茶色くて甘いソースに果物をドプッって付けて食べるアレ......」
「もしかして、チョコレートフォンデュですか?」
「それです!それです!あれ食べたいです!」
「じゃぁ、明日のおやつとして買って行きますか」
「やったー!ありがとうございます!」
彼女はいつものように可愛らしく喜ぶ。この無邪気な感じが可愛いのだ。
どうでもいいような事を思っていた矢先、セーラさんは急に険しい顔になって日用品コーナーに視線を向けた。
僕は「どうしたんですか?」と言ってセーラさんと同じ方向に視線を向けると、そこにはなんと瑛と一人の女性が立っていた。
「瑛!」
「え、偉於!?」
僕は瑛に駆け寄る。
「その人誰?」
「そっちこそあの人誰だ?」
マズイ、すっかりセーラさんの事を忘れていた。
こっちもパニックになっていたが、後ろではもっと大騒ぎが起きていた。
「女王!」
「エリシャ!」
「どうしてこんなところに!」
「貴方様こそ!」
「しかもなぜ汚れた男などと密接しておられるのですか!」
「お前こそ男を引き連れて!」
二人は知り合いなのか? ゴモゴモ言い合っている。
僕は瑛に訊く。
「なぁ、あの人って例の......」
「そうだけど......。偉於と手を繋いでた女の子もエリシャと知り合いってことは例の厨二病の子か?」
「そうだけど......」
そう言っている間も後ろでは言い争いが続いていた。
このままでは周りのお客さんに迷惑を掛けてしまう。
「二人とも、落ち着いて!ここはお店の中ですから、一旦静かに!」
すると二人は意外にも聞き分けが良く、すぐに黙ってくれた。
今はそれどころではなさそうなので、幸い何も入れていなかったカゴを戻し、公園へと向かう。
「なぁ、瑛。なんであの人と一緒に居るんだ?」
「それはだな......前も言った通り、転生してきただとか、貴方は運命の殿方だとか言って抱きついてきて、その時はなんとか言い逃れて学校に言ったんだが、帰りがけにまた抱きついてきて、住みどころもなくて独り彷徨うしか無いって言ってたから仕方なく連れ帰ったってわけ。」
瑛も僕と同じような状況だった訳か......。
「で?偉於の方こそなんでだ?」
「瑛と全く同じ。最初は配信者かなんかかと疑ったが、どうやらそうでも無いっぽかったから仕方なく連れ帰って、今に至る。」
「なるほど......。」
でもどうして転生を語る人物が二人も......。
たとえ一人しか居なかったとしても、転生なんてそう簡単に起こるものではない。
そして僕はそんな技術を聞いたことも見たこともない。
でも、セーラさんが言うことは絶対に嘘ではない。
これを疑うことは何故か本能が許してくれない。
そして後ろでは更にヒートアップしていて......。
「そもそもなんであんたがこんなところに居るの!?」
「仕方ないのです!あいつが......、あいつさえ居なければ......。アリス女王!どうにかして奴に制裁を!」
ん?二人の会話を聞く僕の頭にはてなが浮かぶ。
「アリ......ス......?この人はセラフィナさんですよ?」
「何を言っているのだ汚らわしい部外者め。女王の名はセラフィナでは無いぞ。」
それを聞いた僕とセーラさんはハモる。
「「は?」」
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