第7話 将来的には結婚も!

「まずどこから行きますか?」

「そうですね〜、早速お洋服屋さん行きましょうよっ!」


 翌日の土曜日、僕たちはターミナル駅のデパートに来ていた。セラフィナさんの服がメインだ。いつまでも僕のオーバーサイズで適当にクローゼットから出した服を着させるわけにも行かないからだ。


「おっ、あそこの赤と白の看板のお店行きませんか?」

「いいですねぇ!行きましょ行きましょっ!」


 レディースの売り場に来るの自体は初めてでは無いが、母親以外と来たことが無いので、よく分からない感覚になっていた。


「すみません、僕、おしゃれとかよくわかんないんで、ちゃんとしたアドバイスとかできないかもしれません......。」

「良いんですよっ、偉於さんに可愛いって思ってもらえるなら何でも!それに全部奢りって時点で感謝しか無いんですから!」

「ありがとうございます......。僕にはそれくらいしかできないので......。」


 いくつか服を選んだ後、僕らは試着室に行って、彼女に試着をしてもらった。

 完璧なビジュアルも相まって、どの服も似合っていた。


 その後は軽く食事をしたり、スイーツ屋さんでパンケーキを食べたりした。

 その姿は周りから見たら完全にカップルだっただろう。


「こんなところ初めてなので何もかもが新鮮で楽しいです!」

「本当ですね。僕も楽しいです」

「また個人で買っておきたい物は別で買いに行くつもりなのですが、偉於さんは何か行きたいお店とかあります?」

「そうですね......今日の夜ご飯の材料を買っておかないとなとか思ってますけど」


 そうなのだ。昨日と一昨日の何食かで食材が無くなっていたので、買わないと行けないとは思っていたが、自分一人でスーパーで買いに行くつもりだったので、ここで買っておけるとラッキーだ。


「じゃあ、食材を買いに行きましょう!荷物は持ってもらっているので、私がカートを押しますね!一回押してみたかったんです!」

「いいですよ」

「やったーっ!カートッ、カートッ、カートッ!」


 子供みたいな彼女のスキップする後ろ姿に、最初出会った頃の威厳はなく、あの時とはまた違った魅力が溢れていた。


一通り食材を買い終えた僕らはコンコースを歩いていた。


「見たことのない食材ばかりで楽しかったです!」

「これからもっと色んな料理を作って、セラフィナさんに世界の広さを教えてあげないとですね」


 気づいた時にはもう五時過ぎだった。時間の流れが異様に短く感じる。


「そろそろ日も暮れますし、帰りますか」

「そうですねっ」


 夏は七時でもまだ明るかったのに。冬が近づいて来るのをを感じる。


「今日は楽しかったです!ありがとうございました!」

「それは良かったです。また行きましょうね。」


 最寄りの駅から家へ向かうバスの中で彼女とそんな他愛のない会話をする。

 今日のことは心から楽しかったと思っている。


「私、考えたんです。いつまでも偉於さんに養ってもらい続けるわけにはいきません。そのために、月曜日からはバイトを探そうと思います。調べてみたらいっぱい出てきたので、その中から何かをやろうと思ってます!」

「いやいや良いですよ、バイトになんて行かなくても!来週からまた僕がバイト復帰するんで!」


 セラフィナさんは何もしないで良いと思っていたのに、まさか彼女から働きたいと言ってくるとは思っていなかった。


「ダメです!私も働きます!偉於さんばっかり大変で不平等でしょ?私は昼間学校にも行っていないので、なるべく沢山働いて偉於さんのお手伝いもしないと!異論は認めません!」

「でも......」

「異論は認めませんっ!」


 セラフィナさんが「じぃーー」っと言いながら見つめてくる。


「分かりました!ありがとうございます!でも無理はしないでくださいよ!」

「分かれば良いのです!もう元の世界に戻らなくてもいい方向に向きつつあるので、真面目に働きます!」


 彼女は元気そうに言った。最初は疑いの目でしか見ていなかったセラフィナさん、三日間も傍で彼女のことを見ていると、その清らかすぎる素直な心に惹きつけられていく。一緒にいると楽しい、心情はそう変化していた。


「ん、どうしたんですか?悲しいような嬉しいような複雑な顔をして」

「何でもないですよ。今日は楽しかったな〜って思ってただけです」


 僕は彼女のことが好きなのかもしれない。三日間しか一緒に過ごしていない相手なのにも関わらず、なぜか自分の心の揺れ動きに納得できた。

 一目惚れとはなにか違う、運命のような物を感じた気がした。


「ほらほら、もう家の近くに着きますよ!」

「忘れ物のないように気をつけてくださいね」

「はーいっ」


 バスを降りて、マンションのエントランスに向かう途中、通りがかりのおばさんに話しかけられた。


「あら、新婚さん?仲良くお買い物、良いわね〜」

「夫婦じゃないですよ。でも、お買い物は楽しかったです」


 本当にに夫婦に見えるんだな。何となく思っていたことが具現化した気がした。

 そんなことを思っていたら、セラフィナさんから不意打ち二発目が飛んで来た。


「確かにまだ結婚はしてないですけど、将来的には結婚も考えてます!」

「ちょっ、セラフィナさん!?」


 本当に心臓に悪い。何を考えているんだろう。


「あらま〜。うふふ」


 おばさんはにっこりと微笑んでいる。笑い事じゃないんだよ〜!

 でも僕ははっきりと否定できないのであった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る