第6話 鈍感

「お、今日は割と普通の登校時間だな、イオゴン。今日は厨二病と会わなかったのか?」

「あぁ......登校中には会わなかったぜ。」

「洋画の俳優みたいな口調とポーズやめてくれ」


 家に招いて一緒に寝たなんて口が裂けても言えない僕がボケたところに、瑛がツッコむ。僕は鞄の中の物を机に片付けて、椅子に座る。


「今日、スマホ持ってきてないから、話し相手は頼んだ」

「嫌だよ、俺は動画鑑賞に勤しんでるんだよ」

「もともと話し相手、チャットAIくらいしか居ないだろ......。」

「そんな事無いっちゃ!」

「九州民かよ」


 今日は瑛が九州民化している。


「んで、なげしてスマホ置いてきたと?」

「あぁ、それは......今、従妹が家に来ててさ。それで暇つぶし用に置いてきてあげたんだよ」

「ふ〜ん。昔、従妹が居ないっち言っちょったけん、それ系の自慢話ばぁせんごつ、気ぃ使っとったとに。」


 瑛がジトッとした目でこちらを見つめる。


「い、いや、何年か前に生まれたんだよ、アハハ......。それはそうと、九州弁わかりにくいからやめろ。」

「は〜い。じゃぁ今日は偉於の話し相手になってやるか......。」

「正直、今すぐにでもweb小説読みてぇ」

「いつもそればっかりだもんな。図書室でも行けば?」

「今日空いてないじゃん」

「あっ、そっか」


 うちの学校は、図書室が空いている日が週三日くらいしか無いのだ。

 今日は、瑛との会話でやり過ごすしかなさそうだな。


 授業中もずっとセラフィナさんの事が頭から離れない。一人で大丈夫だろうか。お昼ご飯は用意してきたが、ちゃんと食べられただろうか。帰ったら居なくなってたりしないだろうか。

 そんな心配をしていたが、気づいたときには一日終わっていた。


「お疲れ。イオゴン、明日か明後日、一緒にカラオケ行かね?」

「明日と明後日か......」


 週末は、セラフィナさんのことで色々としないといけないことがある。

 瑛の誘いには乗りたいところだが......


「すまん。今週は却下で。従妹のことでやらないといけないことがあってさ」

「そういえば朝そんな事言ってたな。まぁ良いや。じゃぁ休日楽しめよ〜」


 そう言い残して、瑛は僕と反対方向へ歩き出す。

 強めの雨が降っている。僕は持ってきていた傘を広げる。


「どうしよっかな〜、セラフィナさんのこと......」


 彼女の言っていることは嘘じゃない。十中八九本当の事で、これはどうしようもないと思う。取り敢えず今は、バイトで稼いだお金を使って彼女を養うしか無い。

 すると......


「偉於さ〜ん!」


 セラフィナさんが手を振りながらこっちへと走ってくる。


「迎えに来てくれたんですか?」

「はいっ、偉於さんの青春を彩るためにも!」

「え?」

「だって、彼シャツで一緒に歩いてくれる彼女って憧れますよね?あと、相合い傘と恋人繋ぎもっ!」


 そう言って、セラフィナさんは傘の中に入ってきて、恋人繋ぎをする。


「どこでそんな事覚えたんですか......?」

「動画配信サイトで見ました!い、嫌ですか......?」


 ゲームならこんなテロップが出てきそうだ

『セラフィナ・ルミナシアの上目遣い!』

『夏瀬偉於に効果はバツグンだ!夏瀬偉於は倒れた!』

 ......こんな感じ。


「うっ、眩しいっ!い、良いですよ!その方が僕も嬉しいです!」


 セラフィナさんの理想の彼女プレイをしたそうな目に、僕が敵うはずが無いのだ。


「ありがとうございますっ!」


 そういって彼女は再び恋人繋ぎをする。


「ドキドキしますか?」

「そりゃもちろん。こんなに可愛い女の子に恋人繋ぎなんてされたら誰だって蕩けちゃいますよ」

「か、かわいい............!?」

「はい、かわいいですよ」

「......っ!」


 彼女は顔を赤くする。そんなに恥ずかしいことを言ってしまっただろうか?


「は、恥ずかしいことを言ってしまいましたか?」

「い、いや......鈍感彼氏......最高......!」

「いや、彼氏じゃ無いですよ」

「そうなんですか!?」


 これまたスマホの弊害だな。きっと青春物のアニメかドラマでも見たんだろう......。


「きっとセラフィナさんが見たであろうカップルは、付き合う前に、お互いが『好きだ』って想いを伝えて付き合ってるんですよ。」


 まだまだ知らないことが多いであろう彼女には、言うべきことは言っておくのが大切だ。

 

「それじゃあ、偉於さんが私のことを本気で愛してくれる時が来たら、私に面と向かって告白してくださいねっ」

「そうですねっ。じゃあその時まで僕の元からいなくならないでください」

「はわぁぁ......!」


 またまた彼女の顔が赤くなった。


「私のこと、落としに来てます?」

「どういうことですか?」

「やっぱり鈍感なんですね......偉於さん......。」

「へ?」

「良いんですよ、分かっていないのならば。そっちのほうが都合がいいのかもしれませんし」


 何を言っているのだろうか。まぁ、いいや。

 明日から待ちに待った休日。ずっと彼女に僕の男ものの服ばっかりを着させていてはいけない。新しい服を買ってあげなければ。


「明日は駅ビルのショッピングセンターにでも行きますか」

「はいっ!楽しみです!」


 僕らは楽しい休日への楽しみで胸はいっぱいになっていた。




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