第5話 夜

「お、おいしーーーーーー!」

「あ、ありがとうございます......」


 二人で作った料理、無事、高評価。

 メニューは、ドライカレー、煮込みハンバーグとトマトソース、コーンとカニカマを入れたポテトサラダ、そして、レンコンを薄く切って揚げ焼きにしたレンコンチップ。全て手作りだ。かなり頑張った。疲れた。でもその疲れは、彼女の笑顔と美味しいの一言で消え去る。


「料理、得意なんですか?」

「得意とまでは行きませんが、ほぼ毎日自炊してるので、まぁ人並みには......」


 そう言っている間も、彼女は頬張り続ける。

 嬉しいなあ、喜んで食べてくれて。作った甲斐があった。


「今晩泊まりますよね。どうします?部屋とか。荷物、置いてきましょうか?」

「あ、ありがとうございますっ。荷物は、これしか無いです」


 そう言って取り出したのは、三十センチくらいの木の枝。よく見ると、片一方の先端が渦巻いている。これって......


「魔法の杖ですか?」

「そうなんですが、でも今はただの棒ですね」


 ただの棒とか言いながら、その棒を持つ彼女の手は筋肉が浮かび上がっている。


「ちょっと、持ってみてもいいですか?」

「良いですけど......」


 そういって僕に棒を渡す。


「重っ!」

「そうですよね〜。おんぶしてもらった時は申し訳なかったです。」


 いや、いくら彼女が軽いとはいえ、流石に人間の体重よりは軽い。

 それでも五キログラムはありそうだ。


「いや、このくらいの重さなら気になりませんから」


 そう言うと、彼女は微笑む。


「力、強いんですねっ」

「そんな事無いですよ」


 素敵な笑顔だ。とても楽しい時間だった。


 あの後は、彼女に軽くシャワーの使い方を教えて、順繰りにお風呂に入った。

 彼女には一旦、僕の服を着てもらっている。


「明日は僕、普通に学校なんですけど......どうします?家に居ます?」

「い、良いんですか......?」

「良いですよ、もともとそのつもりでしたし。」


 明日は金曜日だから、明日を凌げば、土日の二日間の間に彼女をどうするか考えよう。僕は彼女にスマホを差し出す。


「明日はそれを家に置いとくんで、それとか、テレビとかで時間つぶしててください」

「は、はいっ。このちょっと厚めの黒いカード......ですか......。」

「使い方わからないと思うんで、ゆっくり教えますね。ただのカードじゃないんで。」


 それから僕はスマホの使い方を教える。最初は目が点になっていたが、思いの外飲み込みが早く、二時間ほど教えたら、ほぼ使い方をマスターしていた。スマホという媒体を全く知らない状態からだったら、かなり早いほうだと思う。


「これが異世界の力......!」

「転生主人公じゃないんだから......いや、あながち間違いではないか。」

「だってこれ!動く絵を見たり書物を読んだり!将又わからないことを調べられたりテレパシーを相手が見える状態でできたり!何でもできるじゃないですか!」


 まぁ、彼女のいた世界が、ここまで発展していなかったんだろう。

 そうなのであれば、納得っちゃ納得だ。


「僕、明日早いんで、もう寝ますね」

「はーいっ」


 そう言い残して、僕はあらかじめ広げておいた布団に向かう。

 そろそろ少し寒くなってきたので、彼女の寝るベットの方には掛け布団を出してある。

 明日は一日スマホがないから、休み時間は何をしよう。瑛と雑談でもしてどうにかするか。


 コンコン


「失礼します......」


 そう言ってセラフィナさんがゆっくりと部屋のドアを開けた。


「セラフィナさん、どうかしましたか?もしかして、畳の部屋のほうが良いですか?」

「そうじゃなくて............一人だと、寂しかったので............。いつも寝る時は一人なんですけど、慣れない環境だとやっぱり未知のモンスターとかもいるかも知れないし............」


 彼女はボソボソと言う。ヤバい、可愛すぎる。女王様もこんなに可愛いとそりゃモテるだろうな。おっと、話がズレた。


「抱き枕、買ってきましょうか?直ぐそこにホームセンターあるんで」

「いや、そうじゃなくて......一緒に寝てもらえませんか......?」


おぉ、そう来るか......。


「い、良いですけど......じゃあ、掛け布団とかもこっちに持ってきますね」

「あ、ありがとうございますっ......!」


 僕はすぐに掛け布団を持ってきて、敷き布団に広げる。

 僕が「どうぞ」と言って、布団に入ってもらう。

 彼女は申し訳無さそうにするも、布団に入った瞬間、リラックスしたような表情に戻る。


「あったか〜い!偉於さんも入ってくださいっ」


 彼女は片手を布団から出して手招きをする。


「それじゃぁ......」


 僕が布団に入ると、彼女が僕の腕を抱きしめる。


「偉於さんが近くに居てくれると、なんだか安心しますっ」

「そ、そうですか......?」

「偉於さんの包容力のおかげで、今晩はゆっくり眠れそうです。元の世界では安心して眠るなんてもっての外。裏切りとかも怖かったので、他人と寝ることもありませんでした。なので、とっても嬉しいんです」


 彼女がいると、一人暮らしの生活も彩られたような気がした。

 なんだかドキドキするが、たぶん彼女のせいだろう。

 すると、不意打ちの言葉が飛んでくる。


「新婚夫婦みたいですねっ」

「っっっっ!」


 今の僕には吹き出すのを全力でガマンすることしかできなかった。







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