第4話 未知の世界
「家来い。」
「え?」
「だから、僕の家に来てくださいと言っているんです。下心はありません。安心して。」
考える前に動いてしまった僕の善意は自分でもよく分からない。
でも、後悔は湧いてこない。
「さっきも言った気がしますが、下心などは疑ってません......。でも、自分が女王だなんだとか言う、怪しい女を家に連れて行くなんて、私が悪い人だったらとか思わないんですか?」
「貴方ほど悪意がゼロで純粋な人は見たことありませんし、なんだかワクワクしてるんですよね、女王様と関われて。」
彼女が心配しないように笑ってみせる。その上での自分のワクワクは本物だ。あの涙のように、純粋なワクワクだ。
「え?嫌ですか?」
「いやいやいやいや!嬉しいです!でも、ほんとに良いんですか......?」
「セラフィナさんが良いならこっちは嬉しいくらいです。貴方だって雨風に当たりたくないでしょ?僕もそんなところに放りだしたくないし。元いた世界がどんなところか知らないけど、こっちの世界はそんな簡単に一日中雨風を凌げる場所なんて見つからないと思います。見つかったとしても、悪い男たちにナンパにされるだけです。そんなの嫌ですよね?」
何回も言うが、ものすごい綺麗な人だ。どんな人がいるかわからない東京の街に放りだしてたまるか。
「無意識なんですか?」
「何がですか?」
「無意識なんですねっ。」
本当になんのことだろう。まぁいいや。それよりも......
「LINEとか持ってます?」
「らいん......?」
「スマホって分かります?」
「すまほ......?」
なるほど。何も知らない感じか......。
「連絡手段です。テレパシーとか使えないんで」
「あ!テレパシーはご存知なんですね!使えないのであれば、私がお礼に特訓して差し上げます!フンッ!」
「ごめんなさい、こっちの世界にはテレパシーとかないです。」
「ヒョエッ!?」
元の世界ではテレパシーが連絡手段だったんだな。
それはそれで納得な気もするが、スマホみたいな便利な機械を使う
「私のテレパシーを聞いたら、皆が私の前にひれ伏してたのに......。」
「な、なるほど......。それはそうと、僕の家に来る感じで大丈夫ですか?」
「はい!ありがとうございますっ」
「じゃ、行きましょうか」
◇
「ここが偉於さんのお家......!人が良いだけあってお金持ちなんですね......」
「そんな事無いでしょ。駅も結構遠いし。」
「そうじゃなくて、おっきいですねってことですよ!見上げないと全貌が見えません......!」
「あ、なるほど」
全てを察した。僕の住んでるマンション全てを僕の家だと勘違いしてるんだ。
僕の知ってる異世界は、ヨーロッパの町並みみたいなやつ。彼女のいた世界もそんな感じなんだろう。
「これ、マンションって言って、全部僕の家なんじゃないんですよ、悲しいことに。この中の一室が僕ん家。これでも東京だから地価結構高いんですけどね。」
「えっ、あっ、ゴメンナサイ......何もかもが未知の世界なので......」
申し訳無さそうに顔を俯けるが、気にしないでと笑いかけてエレベーターに乗る。
「ここが偉於さんのお部屋......!クンクンッ、いい匂い......。」
「嗅がないで」
まず、最初にすべきことは夜ご飯。さっきコンビニで買ったものは一旦の食事......いや、もうお腹いっぱいかな?一応尋ねてみることにする。
「お腹......空いてます?」
「はいっ!」
小柄だが、食欲はすごいんだな。これだけスタイルが良いのが不思議だ。
「じゃぁ作りますね。大したものは作れませんが、なにか食べたいものあります?」
「サンドイッチが食べたいですが、いろんな食べ物を食べてみたいので、偉於さんにお任せしますっ」
「なんでも良い」が一番困るが、こればっかりは仕方ない。準備するか、夜ご飯。
「手伝いますっ!」
「あ、ありがとうございます」
休んでてほしいのもあるが、正直あまり手伝ってもらうつもりはない。
彼女には簡単な食器洗いだけ任せる。
「お料理とか初めてですか?」
「はい......。基本は下僕の方たちにやってもらってたので......。」
「あ、それ!包丁は危ないから僕が洗います!そこに置いといてください!」
彼女が包丁を洗おうと、スポンジと包丁を持つ。
危ないものを扱わせてはいけないと思い、シンクの中を指差す。
「大丈夫です、こういう物の扱いには慣れてるので」
「いや、でもダメだって......。」
「偉於さんにばっかり迷惑をかけたので、私も少しくらいリスクを負わないと!」
そういって手慣れた様子で包丁を洗い終わる。
「ごめんなさい......。」
「普通の人はそんなことじゃ謝らないと思いますよ」
そう言って彼女は僕に素敵な笑顔を向けてくれた。
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