第3話 僕の家に来い
「......っ!カッコいい.........。」
「は?」
何言ってんだ、この人。カッコいいって......。冗談はその美しすぎてヤバい見た目だけにしてくれ。マズイ、語彙力がない。焦ってるのか?それとも照れてるのか?自分でもよく分からないが、彼女の言葉を「そうかそうか、ありがとう」と受け入れる事ができないことは間違いない。
「だって、私のこと、『美しい』って、『泣いてほしくない』って......。本当の優しい人からしか聞けないですよ!」
いや、カッコつけたように見えるんだよ、普通。何この人キモってなるんだよ普通。あんな事聞いたらさぁ。
「今まで、私の権力を手にするために、カッコつけたような言葉を私にくれる人は居ました。でもそれは全て濁った言葉で、私は価値なんて感じなかった!でもでも!今の偉於さんの言葉に濁りなんて無かった!本当に私を尊重してくれたような気がしたんです!」
「セ、セラフィナさんでしたっけ。ちょ、落ち着いて......」
宥めようとするが、彼女の言葉の連撃は止まらない。
「私のことを誠実に肯定してもらえたのは初めてなんです!元の世界では、物心ついたころにはもう家族も居なくて、ハリボテの、偽物の笑顔と愛情を受けて育ったきた私にとって、濁ってない肯定の言葉がどれだけ嬉しいか!」
またもや彼女の目に涙が浮かんできた。何か手を打とうとしていた時......、
ぐぅ〜。
彼女のお腹がなった。
「はぁぁぁあわわわわ!ご、ごめんなさい!こっちに来てから何も食べていなかったので!」
「そうなんですか?」
彼女が赤面したまま可愛らしく照れる。
お腹がなったということは本当に朝から何も食べてない?
そんな人を僕はさっきから歩かせて、大声で喋らせていたのか?なんだか急に罪悪感が湧いてきた。
「コンビニ行きましょうか。」
「コ、コンビニ?どこですか、そこ?」
来たら分かりますよとだけ言い、カバンを前に回して、彼女をおんぶする。
「すみません、お腹が空いてる人を歩かせてしまって。コンビニまでおんぶしていきます」
「そ、そそそそんな!悪いですよ!自分で歩きます!」
「大声を出さないでください。余計にお腹空きますよ。下心とかないので心配しないでください」
「そんなこと疑ってません!あなた、優しすぎません?」
褒められているのだろう。でも今はそれより優先すべきことがある。
そう、彼女のお腹を満たしてあげることだ。
いつの間にか僕には親心に似たものが湧いてきていた。これが父性本能というやつなんだろう。そのまま彼女をコンビニまでおんぶしていった。
「なんでふかふぉれ!?おいひふぎます〜......(なんですかこれ!?おいしすぎます〜......)」
「なんですかって、これただのサンドイッチだけど......もしかして知らない?」
信じますとは言ったものの、まだ完全に信じ切っているといえば嘘になる。彼女が発する知ってる知らないのどこまでが本当でどこからが嘘なのか、よく分からない。
でもなぁ〜、ここまで一人の男、しかも対して高いスペックも無いようなやつを、わざわざお腹を空かしてまで騙そうとするだろうか。
「白いフワフワの中にカラフルなしょっぱいおかずが!美味しい!」
「サラダサンドもこんなに絶賛されたこと無いだろうな。」
「サラダサンド!覚えとかないと......」
「お、おう」
リズムが狂わされるなぁ。まぁいいや。
「お腹は膨れましたか?」
「はい!もちろん!」
「結構食べましたもんね......」
あの後、たまごサンド、梅のおにぎり、鮭のおにぎり、コンビニチキン。チー鱈とじゃがりこまで食べ尽くした。後の二つは僕のおやつ用だったのに......。僕の罪悪感を振り切ってしまうほどの食いっぷりだった。でも罪悪感が振り切れたとまでは言ってない。
この後どうしたら良いんだろう......。
「じゃぁ僕はこの辺で......。因みにこの後、どうするんですか?」
「取り敢えず雨風しのげる場所を見つけて、その後......」
「家来い。」
「え?」
「だから、僕の家に来てくださいと言っているんです。下心はありません。安心して。」
考える前に、僕の善意は本能的に動いていたのだ。
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