第2話 カッコいい.........

「おーやっと来たかイオゴン」

「イオゴン言うなし」


 ボッチといったが、一応僕には唯一の友達、相生あいおいえいというやつがいる。全部母音だ。


「それはそうと、どしたん?今日、時間ギリギリやん。いつもはもっと早いのに」

「ちょっと色々あってさ。」


 よっこらしょっ、と机にカバンをおろして一息つく。さっきのことは言っても信じてもらえなさそうなので、誰にも話すつもりは無い......と思っていたが、面白かったのでやっぱり話すことにする。


「登校中に厨二病に出くわしてさ。絡まれてたんだよ。それで遅くなった。」

「絡まれて遅くなったって、何言われたんだよ。めっちゃ気になるんだが?」


 なんで信じてんだよ。冗談だと思われる前提だったのに。


「信じるのか?」

「え?だって、お前今まで嘘ついたこと無いじゃん。え、嘘なの?」

「嘘じゃなけどさぁ」


 どうやら信じてもらえたようなので、ざっくりさっきの出来事を瑛に話した。

 彼はケラケラ笑いながら話を聞いていた。


「なにそれ、超ウケルんですけど〜」

「ギャルかよ」


 ギャル化した瑛のことは置いといて、ほんとになんだったんだろうな。

 服もボロボロだったし。流石に演技だよな......。本当だったら可哀想だなとは思う。

 でも、女王がドータラコータラ言ってたし、流石にないか。


「動画配信者かなんかじゃね?」

「あぁ、確かにそれあるかも......。」


 確かに配信者が「異世界から転生してきた女王様のフリして、通行人の人を驚かせてみた!」みたいな企画をやってると考えれば辻褄が合う。美人だったし、インフルエンサーとしてのスペックはありそうだ。


「どうせ、帰りがけには居ないだろうしなぁ〜。俺も会いたかったわ。」

「怪しい人にばっかにつるんでると犯罪に巻き込まれるぞ?」

「少しくらいの刺激、人生には必須だze?」

「意味が分からん。あとイケボで言うなし」


 朝のことは瑛の言う通り、Youtuberかなんかのイタズラだろうと思い、その後の授業はいつも通りに過ごした。


 放課後、帰るために朝と同じ道を通る。朝、あの女性がいた場所には誰もいない......と思っていたのだが......いる!朝と同じ場所に!

 回り道をしようとする前に彼女がこちらに気づき、寄ってきた。


「来てくれたのですか、朝の男性......。朝は......その......申し訳ありませんでした!あんな失礼な態度をとってしまって......」

「ど、どうしたんですか?朝はすごい強気だったのに......」


 朝とはまるで口調も声も変化している。……可愛い。


「この世界では私の魔法は通用しないっぽくて......。魔法がない世界では、住み慣れた貴方の方が権力も何もかも上でしょうし......。」

「権力って...、本当にどうしたんですか?僕だって権力めっちゃ低いですし、そんなヘコヘコしないでほしいんですが......。」


 彼女からは悪意を全く感じない。その健全さから少し心を開いても良い気がした。


「こちらこそ朝はすみません。僕、夏瀬偉於っていいます。朝、同行がなんとかとか言ってましたよね。それについては別に良いですけど、何もしないですよ?」

「良いのですか!?ありがとうございます!私、元の世界に戻るまで、こちらの世界で生きていかないといけなさそうなので......。こっちの世界のことを勉強しないと............。」

「気になってたんですけど、その謎設定なんなんですか?」


 Youtuberなのか?でも、カメラとか持ってないし......。


「設定じゃないんです!私は本物のヴェルゼンテア領の女王で霧と光の魔法を使って、国の安泰を守ってたんです!そしたら......。」

「気づいたら転生してた、と。じゃぁなんで日本語喋れるんですか?翻訳コンニャクでも食べたんですか?厨二病なんですか?Youtuberなんですか?」


 黒くて長い髪が揺れる美しい容姿の女の子の目にはうっすら涙が浮かんでいる。

 すこし冷たい口調で言ってしまったかもしれない。


「すみません。少し厳しく言ってしまって」

「良いんです。でも!私が女王様で、魔法が使えたことは本当なんです!言語もなぜか適応してて......。信じてください!う、うわあぁぁぁぁぁん!」

「ちょっと落ち着いて!」


 泣き出してしまった。彼女からは本当に信じてほしいという意思が伝わってくる。

 とても嘘をついているようには見えないが、それでも、現実世界で、女王が転生してきたなんて言われても信じることは難しい。でも......、彼女が本気でこちらに訴えかけるために流した涙は本物だ。


「分かりました!信じます!だから泣かないでください!」

「本当に...ヒクッ!、信じて...ヒクッ!、もらえ......ますか?」

「はい、信じます!あなたから嘘を言っているような悪意は感じませんし......。何より......貴方みたいな美しい女性に......泣いてほしくありません」


 ヤバい。調子乗るなよみたいなこと思われたかな......。


「......っ!カッコいい.........」


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