逆転生女王様、魔法が使えないヒロインです

音心みら🫧

第1話 女王様

 月曜日、それは休日が終わり、これから始まる1週間に憂鬱を覚えている最悪の日。

 青春真っ只中の学生が言うのもどうかと思うが、アニメのような都合の良い青春だけではないことは明白だ。

 常にボッチの僕、夏瀬なつせ偉於いおにとっては尚更キラキラした青春なんて遠いもの。平均よりちょっと上くらいの成績をキープしながら毎日同じことを繰り返すだけのマシーンになっていた。


 いつも通り、朝の通学路を歩いていた時、一人の女性がボロボロの服を着て倒れていた。ホームレスの人かな。避けて通った方が良いよな。

 その女性を避けて通ろうとした時......

 

「おい、そこの男」

「ハ、ハイ!」


 突然、倒れていた女性から、ハスキーボイスのような声がした。飛び上がりながら、ゆっくり彼女の方を向いた。


「ここはどこなのか。説明したまえ、そこの男」

「ボ、ボク...です...か...?」


 威厳があり、低い女声が似合っている......のか?

 その人は体格も小さめで、イケメン系というよりガーリー系だ。

 威厳があるのは確かだが、どこか......可愛いような気もする。


「おい、聞いているのか」

「ハイッ!き、ききき聞いてます!こ、ここは、と、東京ですっ!」


 気圧されているのか、自然と緊張してしまう。

 焦りながらも答えると、


「トウキョウ?聞いたことのない領土だ。誰の支配下なのだ?」

「いや、支配下って、そ、総理大臣?違う気もするけど......」


 政治のことはよくわからない。公民は苦手なんだよ......。


「そうか、済まないな、いきなり話しかけてしまって。名乗り遅れた。私の名はセラフィナ・ルミナシア。ヴェルゼンテア領の女王だ。」


 何を言ってるんだこの人。尚更かかわらないほうが良さそうな気がしたので、敢えて返事は返さず、自分なりの最高の笑顔と会釈だけして立ち去ろうとする。


「待て、男。お前も名を名乗れ。」


 これ絶対名乗らないほうが良いやつじゃん!この女の人の見た目がもうちょっと大人っぽかったらもうこれ完全に犯罪だよ!


「おい、女王の問に答えぬというのか?もう良い、用済みだ。」


 するとその人は杖を取り出し、僕に向ける。ファンタジーはあまり見ない僕だが、彼女のポーズが僕に魔法で攻撃するための態勢だということは分かった。え?つまり?


「ちょちょちょちょヤバイヤバイ!」

「ファントムフォグストライク!」


 頭を抱え目をつむる。あぁ、僕、こんなところで死ぬんだ......。そう覚悟した時......、


「ん?何故だ?」


 死んで、ない......。ちょ待てよ。よくよく考えればここはアニメの世界でもなんでもない。魔法など使えるわけ無いのだ。なんだよ、死を覚悟って。厨二病はお互い様だな。彼女はもう一度魔法を使おうとする。


「ファントムフォグストライク!…………え?なんで!?なんで出ないの!?」


 急にカワボ、ロリボというべきだろうか。急に、the女の子のような声になる。

 威厳はどこに行ったんだろうか。親近感が湧いてくる。


「あのぉ〜、大丈夫ですか?」

「ん゙っん゙ん、失礼。少々醜い姿を見せてしまった。今日のところは特別に許してやる。感謝しろ。取り敢えず今日のところはお前に同行させてもらう。」

「へ?ど、同行?」


 ちょっとまってくれ。僕はこれから学校がある。同行なんて御免だ。


「あの、僕、今から学校行かないといけないんで今はこの辺で失礼させて頂きます......。」

「そうか、それでは一生懸命勉学に努めて来い」


 大人しく引き下がってくれて良かった。これで一件落着だな。


 この時から、僕と女王様(自称)との物語はスタートしたのであった。






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