縮まる距離
曇天が続いていた秋空が、遂に雨となって降ってきた
帰ろうにも傘が無くて困ってる。
濡れて帰るか、遅くなってでも雨が弱まるのを待つか
どちらにしようか考えてると、雫がやってきた
「どうしたの悠」
「それが、傘を忘れちゃってね」
「あー・・・ねえ悠」
顔を赤くした雫が、傘を広げ、傘の中に入るように、手で招くように動かす
「中に入って、濡れて帰って欲しくないし」
「・・・じゃあお言葉に甘えて。傘は僕が持つよ」
そう言って雫が待つ傘の中に僕も入った
雨音と、傘に当たり跳ねる音
車が水たまりを踏んで跳ねる音
それらを聞きながら、僕は雫と相合傘をして帰路に着く
雫が濡れないよう、彼女の方に傘を傾けて
車道側を歩き、跳ねる水から守るように
僕は入れて貰ってる側だ。
全身ずぶ濡れから、肩やズボンが濡れるくらいだったら全然平気だ
「・・・悠、肩、濡れてるよ」
「大丈夫、入れて貰ってる側だから」
「濡れてほしくない。もっと近寄って。悠なら良いから」
そう言って雫は僕に抱き着くように近づいてきた
「・・・雫、その、密着して・・・」
僕の腕が彼女の胸部に当たっている
言葉にするべきか途中で言い淀んでしまった
が、それは雫本人も分かってやってるようだった
「・・・悠なら良いの。それに雨でちょっと冷えて寒いし」
そう言って頬を少し赤くさせながらも、雫は僕の腕に抱き着くのを止めない
「・・・悠は優しいよね」
「何が?」
「とぼけないで。傘を私寄りにしてた。車道側を歩いてくれてる。
細かい所だけど、護ってくれてるって思えて安心する」
「大切だから、そんなの当然だと思っての行動だけどな」
「私が大切な幼馴染だから?」
「・・・ごめん、幼馴染、って言って良いのか分からない、それ以上な気がする」
「・・・それ以上になりたいな」
そう言って雫は腕を抱き着くのを止め、体ごと密着させてきた
それによって今度は彼女の体を体全体で感じる
・・・暖かい、それでいて柔らかい。そう感じさせられた
「あ、ちょ」
「あー寒い寒い」
何か言おうと思ったが、言わせないとばかりに遮ってきた
言外に離れませんよと言われてる気がする
僕は下手に抵抗して彼女が転倒とかして欲しくないと思い、されるがままになる
・・・一条に渡したくない
その思いから芽生えた感情が、どんどん肥大化していた
しかし、それは時に雫を傷つけたく無いと思って過剰に意識し、抵抗する
その反応として離れてほしいと言おうと思った
だが雫は良いと言った、言ってくれた
雫から来てくれる
抵抗しなくても良いのなら
・・・異性として見て良いのなら
おそらく随分前から芽吹いていて、花を咲かせていたのに
他の事に気を取られて日の目を見る事が無かったんだろう
だが粘り強く咲き続けた事で、ようやっと日の目を見る事が出来た
僕は幼馴染としてではなく、異性として彼女の事が好きだ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます