心が離れる瞬間
「・・・もういい」
雫は走り出してしまった
「ほら、行って来い」
いつの間にか僕の所に来ていた金船先輩が
そう言って固まってた僕を追いかけるように促した
ごめん、やりすぎた、と、金船先輩の反省した声を聞きながら
ここまで怒らせるつもりは無かったって事か?
そんな事は今はどうでもいい。雫が心配だ
僕は雫の跡を追うように走り出す。
その時の一条は僕と同様、固まって動こうとせず
「えっなんで?」っと、呟いてるような様子だった
傷つけたのを理解しないコイツが心底嫌いだ
雫の行方が分からない
が、おそらく周りに迷惑がかからない校舎裏だ
雫ならそこに行く。そう信じて向かった
校舎裏でしゃがみ込んでる雫がいた
足音がしたから顔を上げたのだろう
来た人の姿を見て、ああやっぱり?って感じの表情だった
「待ってみれば、追いかけてくれるのは悠なのね」
「一条が良かった?」
「・・・今は悠が来てくれた事が嬉しいかな」
無意識なのか、もうどうでもいいやあんな奴と雫が呟いた
そんな事を口にするほど雫が弱ってる
何も言わず、横で一緒にしゃがみ込み、曇天を眺めていると
何かに怯える様に、顔色を窺うような、いつもの雫じゃない様子なのは見て取れた
挙動不審なので聞いてみよう
「どうしたの雫」
「・・・話、聞いてくれる?」
「当たり前だ」
「友梨ちゃんと色々言ってたんだけどね、それでもと思ったんだ。だけど」
「私、一条君を追いかけるの疲れちゃった・・・」
雫が、一条を諦めるような発言をした
「そっか、疲れちゃったか。」
「うん・・・」
「だとしたらさ、なんであんなに挙動不審だったの?」
「そ、それは・・・」
言い淀むように言葉に困っている雫
でも急かさず、言葉にするのをじっと待つ
そしたら言葉に出来たのか、口にした
「私が止めるって言ったら
悠が私の為に頑張って動いてくれた全てがふいになると思ったから・・・!」
でもそれも疲れちゃって嫌になっちゃった
私自身も色々頑張ったけども、なんの意味も無かったのかな
雫が涙を流しながら、体を震わせながら悲痛そうな声でそう言った
僕はただ一人の男に振り向いて貰おうと頑張ってる雫の姿を知ってる
だがそれを蔑ろにされた
雫が弱った余り、自身の努力まで否定し始めた
雫が頑張りを否定なんてさせてたまるか
それが雫自身であってもだ
「そんな事ないよ」
「え?」
「慣れないお弁当作りも、一条の好みの物を好きになろうとしてたのも
全部知ってる。それでもダメなら縁がなかったんだよアイツとは」
そして、今までのアイツの行動によって芽生えそうになった物を咲かせる
余りにも遅かったが、芽吹いてくれた
「傷つけるだけの奴に大切な幼馴染である雫を渡せるもんか」
「・・・傷心中の私に告白?大切な幼馴染って」
顔を赤くした雫にそう言われた
・・・どう考えてもこれは
「・・・告白だねこれ」
「・・・っ!・・・あっははは!無意識に告白したの?バカね?バカなのね!?」
そう笑いながら僕の肩を叩きながらバカ呼ばわりしてくる雫
だが、さっきまでの泣いてる姿よりは全然良いと思い、受け入れた
気が済んだのか、叩き終えた雫が「・・・否定しないんだ」と呟いた
僕はアイツと違って難聴なんかしない
それに応える
「こんなにも魅力的で大切な幼馴染である雫を無下にするような奴に
渡したくないって思ったのはホントだからね」
「・・・っ!・・・悠、お願いがあるの」
一条君に関するお願いはこれで最後だから
雫は覚悟を決めたようにお願いの内容を伝えてきた。
一条とは会いたくないが、その内容なら喜んで引き受けて、一条と会おう
僕にお願いしてる姿の雫は、弱々しく開く花ではなく
力いっぱいに花開く、自信のある表情をした雫の姿だ
僕の好きな表情だ
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