第十三章
「ワンワンワン!」
とりあえずクロと名付けた。まだ正式な里親ではないから名付けて良いものか悩んだけど、とりあえずクロと名付けた。名がないと色々と不便だし、餌のときや危険な時、なんと呼んで良いのかわからないし、とりあえずクロと名付けた。安直かもしれないけど本人、いや本犬も気に入って喜んでいるようだしクロに決まった。ただ元気良すぎる。家中駆け回って、追いかけ回すほうが疲れる。
「ほらクロ! 大人しくしなさい!」
秋穂が世話に手間取っているけど、その顔は幸せそうだ。
「ほら捕まえた! 大人しくしろこの!」
ようやく捕まえた秋穂はそのままクロをお風呂に連れて行った。何されるのかな? とクロは能天気にしていたらシャワーの音で激しく嫌がった。
「ワンワンワ!」
「こら、あばれんな! ほら弱くしたから大丈夫だから」
そう言って秋穂はしばらくシャワーの音を聞かせた。その間、大丈夫だよと優しく言い聞かせている。たまにシャワーを少し触らせるとクロは軽く飲んだりした。そうして数分かけてシャワーが怖いものじゃないと分かって貰う。こうした慣れというのは例えうちが里親になれなかったとしても、他の里親でシャワーになれると世話も苦労しなくなるだろうし、クロだってストレスなく過ごせると思う。
クロに犬用のシャンプーをかける。
「お痒い所はありませんか?」
「ワン!」
「うふふ」
まるで返事するようなクロに元から世話好きな秋穂は楽しそうだ。
「秋穂、そろそろ自分も入りな。クロは私が拭いとくから!」
「うん、ありがとう!」
そう言って秋穂は風呂で服を脱いだ。相変わらず良い身体している。別に今更そういう目的ではないんだけど、こう久しぶりに秋穂の身体見ると少しドキドキする。
(たく、結婚してから恥じらいがなくなったんだから……)
私はドキドキしながらクロを拭いてやった。クロは気持ちよさそうに大人しくしている。賢い子だし、このままわずか一週間だけど良い里親に会えればいいと思う。でも、本音を言えば、言えばだけど、このまま本当にこの子の親になりたいと思っている。たった一日で何が覚悟決まっているのと思われるかもしれないけど、そのたった一日でもこの子を愛してしまったんだと思う。もちろん、これからの条件クリアでその資格があるのか無いのか決まる。
「クロ、お前はうちの子になりたい?」
「ワン」
さっきはただ元気そうに吠えていたクロが今はしっかりと返事するように吠えた。それは朋美の言葉に返事するように思えて、朋美の中でしっかりとした覚悟になった。
「分かった」
そう言って朋美はクロを抱きしめた。
「うちの子になろう」
クロ、一歳。W市出身の柴犬。被災犬として生まれた。
東日本の教訓からペット同伴の避難所もあるけどやっぱり人命優先になるとその数には限界がある。同じ命だと言うけど、人の命でもやっぱり救えきれないことも多くって、例えば日本でも貧困で餓死してしまう人もいる。生活保護申請しても受理されなかったり、行政の手続きが分からず、行けなかったり、行ったとしても窓口での対応不足や塩対応で行きづらくなってしまったりと、その人の性格もあるけど、そういった理由から生活保護を受けられなかったり受けなかったりする。その他にも知的ハンデがあって、そしてそのハンデが本人も認識出来てないような状態だったりすると、そうした知識もないだろうし、それもまた仕事にも繋げられずに、親も年老いたりすると生活の質はどんどん下がっていき、やっぱり才覚はホームレスになったり、餓死になったりする。あくまで最悪な一例だけどね。そうならないように企業やNPO法人や社会福祉法人が就労支援や生活支援をしている。
人もペットも生きるのは本当に大変だ。
出来ることなら、本当に幸せならこの子の母親も引き取りたいのだけど、難しい。
子どもを生まないから産休の心配はないにしても、この世の中給料がなかなか上がりにくい。大学出たとしても物価高の日本じゃそこも厳しい。
大学出たのに景気が良くならない。でも、大学でないと就職の選択肢も限りがある。絶対じゃないけど、選択肢を増やすにはその進路も手だと思う。私も高卒だから大卒の人の苦労はわからないけど、でも高卒なりに低い給料からコツコツ頑張っている方だと思うから高卒の苦労は多分、分かると思う。
「それでも朋ちゃんは高卒組の中じゃだいぶ給料いいよ」
と前に秋穂に言われた。大卒初任給並みの給料だそうだ。ちなみに今の日本はその初任給以上に上がる職業の方が少ない。
「なかなかうまく行かないねクロ」
「ワン!」
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