第十二章

 犬を飼いたい。

 子どもが生めない私達は犬を飼う前にまずは保護施設に来た。そこでは犬と猫合わせて十二頭の子たちを保護している。野良犬だったり、訳あって飼えなくなったりといろいろな理由がある。中には被災して避難所には一緒には入れないしという理由から、交通事故で飼い主が亡くなったからという理由で遺族がここに相談しに来たりとどうにもならない理由の子もいる。災害や飼い主の不幸といった理由は事前に準備できることじゃないし、だからといって遺された人に全部負担が行くというのも難しい話だ。SNSではこういった事情を簡単に遺族が―――とか、その準備しないほうが悪い―――とか簡単に言うけど、人には人の事情があって、それこそ簡単に言うべきことじゃないし、事情を知らずに批判するものでもない。もちろん、捨てられた子にとってはそんな人間の事情知ったことじゃないし、突然の別れに心に傷を負う子だっているに決まっている。なかには人間不信になったり、急に野良犬になって街をさまようことになったり、被災地で瓦礫の中を飼い主探してさまよいながら悲しみに暮れる子もいる。

 薄々自分の飼い主が亡くなったんだと気づく子は保護されてもふさぎ込むようになる。その傷は新しい家族と過ごすことが癒しになることもある。時間をかけてゆっくりと。

 猫と違って犬は人と生きてきた生き物だから人の居ない生活は、出来なくはないけど、やっぱり心に寂しさはあると思う。

 「おいで」

 その子は柴犬だった。まだ子犬の黒い柴犬。被災した日に生まれたんだって。だからこの子にとって人と別れたという感情はあまりない。生んだ母犬は災害ボランティアが運営する簡易的な事務所で、いわゆるコンテナ事務所で、工事現場の事務所みたこと無い? 中には入った人少ないかもだけど、私もないけど、あんな感じの事務所の中で保護された。

 最初は妊娠したまま寒い瓦礫の中でうずくまっていたそうだが、人の声が聞こえると「助けて……」とでも言うように近づいてきたらしい。外で生むには周囲には瓦礫ばかりだし、まだ災害ごみもある中で衛生的にも良いわけでもない。ライフラインが整っているわけでもないから、とりあえず安全な市街に連れて行って、そこが保護事務所だった。この子はそこで生まれて、落ち着いた頃にこの団体に引き取られたんだ。

 車で五時間の長旅だっただろうにこの子は元気だ。母犬も落ち着いた様子で眠っている。まだ心の傷もあるだろうし、安らげてよかた。でもここはあくまで一時的な場所。今保護している子で定員だ。コレ以上は保護できない。

 「まだ子犬なんでこの子だけでも里親さんになってほしいというのが私達の願いなんです」

 そうスタッフさんは言った。

 ただまだ狂犬病予防もペット保険も未確定なままだ。今日明日決められる問題じゃなかった。

 秋穂は子犬を抱いた。大人しく笑顔でいる。可愛い子だ。

 「今のところ風邪も引いたことがないので健康です」

 「よかったね、元気な子だね!」

 秋穂さんはもうすでにメロメロだった。

 「良かったら試しに一週間過ごしてみますか?」

 「いいんですか?」

 意外と話の流れが早かった。

 「でも、まだごはんとか寝床とか用意してなくって」

 「必要な分は準備してあるんですよ。一週間分のその子のご飯。食べさせるときはまだ子どもなんでお湯でふやかしてあげてください。これ、プリントです。あと、トイレシートです。それと――――」

 その後、色々と準備してもらった。



 帰りの車の中。

 後部座席にはあの子が座っている。まだ名前がない。かごの中に入れるよりもこうして座ってくれるから出して入るけど、それでも一応、私の膝の上に乗せている。

 「ほんとうはお母さんの方も引き取りたいんだけど、経済的に難しいね」

 「そうだね。ペット飼うにしても家族だし、想像以上にお金かかることもあるだろうし、難しいよね」

 朋美は子犬を撫でながら秋穂に相談していた。

 気がかりなのはあの母犬も無事に里親に巡り会えてほしい。実際、私達もまだ里親ではないけど、この一週間様子見て、一週間後面談受けて決定になる。ペットショップでは欲しい子をローンで購入して、あとはお世話の方法を聞くような感じなのかなと思うけど、ペットショップで買ったこと無いから分からないけど、そういうのとは別でしっかりと里親先がちゃんとしているのか審査が入る。里親になったあとも継続して連絡が来るようになるし、アドバイスも貰える。保護団体としては小規模ながらしっかりしている。その分、保護できる子には限りがあるけど、保護して終わりではないから、あとは飼う側の問題。安易に捨てない。飼う前に本当に飼えるのか、育てられるのか考える。ペットの寿命と自分の寿命を考える。飼い主が先に亡くなったら不幸なのはペットも同じだからね。引っ越しの予定あるのか、転居先では変えないこともあるからね。捨て犬、捨て猫の大半はこの身勝手さの原因。あと安易に旅行できないし、ペットホテルを使うにしても費用がかかるのも考えて欲しい。その他にさっきも言ったけど保険証は使えない。でも、保険は加入すれば使えるからペットの医療費は毎月の保険から支払われる。実際どれほどカバーできるのかは保険会社によると思うけど、かかった医療費の全額は戻ってくると思う。

 突然、体調悪くなったとして最初は自腹になるとは思うけど、あとから申請すれば払われるはず。その時、治療費の明細書はしっかりと手元に残さないとあとあと治療費の証明できないから注意してね。

 とりあえず、まだ経験ないからこの辺かな言えることは。


 ※ちなみにさっきの経験談はもう腸治療の作者経験です。ペット保険に関しては詳しくありません。過去二回倒れたのは秘密。最初自腹でしたけど三割負担で十四万ほどでした。ちなみに手術はしてませんが、するとしたら内視鏡手術みたいですね。どこかでその話もしたいです。

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