第十一章

 旅行の後、ようやく現実に戻った。

 家で秋穂の腕の中に包まれながらNtubuで動画を見ていた。隣の新潟で釣りの動画を見ていた。海ごみをそのまま釣り竿にする変わった動画だけど、面白くてみている。普段は旅行系の動画を見るんだけど、なんでかこういう動画もたまに見るようになった。

 「犬とかかってみたいな」

 秋穂がふとそう言った。

 「犬?」

 「うん、ほら同性同士じゃない? 子ども産めないし、男性の精子提供も結局は朋ちゃんの遺伝子残せないし、それなら犬とか猫とかが良いなって思って。まぁ、子どももペットも育てるおは大変だし、お金かかるからそう簡単じゃないんだけどね」

 「子どもぁ、生みたいと思ったことがないわけじゃないけど、そうだよね~、どうしても同性同士だと絶対向き合う現実だよね〜。生む、生まないは別だとしても、どうしてもよぎるよね」

 「朋ちゃんは子ども欲しい?」

 「うーん、嫌いじゃないんだけど。でも、どうしてもってわけじゃなくて、それに秋穂の遺伝子じゃなくって、精子バンクの精子で生んでも、なんかその……嬉しいのかなって?」

 別に精子バンクを否定しているわけじゃないんだけど、レズビアンで子供欲しい人もいるし、代理母でゲイの人が卵子バンクで生んでもらうこともある。ただ、稀に代理母に親権が奪われたり、卵子バンクの母親が親権を得たりする判例もあり、それは海外だけど、日本でも有り得る話で、そういうリスクを考えたり、やっぱり血の繋がりとかで複雑な思いをする場合もある。

 「犬ねー何犬が良いの?」

 「うーんとね」

 そう言って秋穂は保護犬サイトを見る。

 保険所の犬や猫を引き取り里親に出す保護団体だけど、運営費は同じ有志の人の寄付金で賄われている。引き取れる頭数にも限りがあるし、保護の間にも餌代やおむつ代もかかるし、健康ばかりの子だけではなく、病気の子も居たりして、資金がある団体なら良いけど、資金源に限りがある団体はどうしてもそういう子を救えなかったりする。

 見捨てたくないと考える人は多くとも、限界というのはあるし、無力さを感じる人もいる。

 だから安易に里親になりたいというのも出来ないし、やっぱり覚悟がいる。

 でも、急にどうしたんだろ。秋穂がこんな事言うのは珍しい。

 「子供欲しいの?」

 「ううん、そういうわけじゃなくって」

 「なくって?」

 「……寂しくって」

 秋穂はそう言った。

 私達は子どもという宝物を残せるわけじゃない。その代わりにペットだったり、なにかイラストだったり、ライトノベルだったり、小説だったり残す人もいる。中にはそういうのを気にしない人もいるし、色々だし、十人十色。でも、やっぱり寂しさというのは秋穂も感じる。

 私は秋穂を抱きしめた。

 「今度、保護団体さんの見学してみる?」

 「うん」

 「分かった。何泣いてんの?」

 「泣いてないもん」

 そう言いながら秋穂はキスをした。

 兄、祐樹が死んで、もう六年が経つ。

 生まれ変わってるんなら今頃小学生だろうか。もしそうならどんな小学生になっているんだろうかとか考えた。

 兄のことだ。どうせ前世のことなんか気にせずに楽しんでいるんだろう。

 のびのびと生きて、幸せに生きているに違いない。



 そう思った……。

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