第十章

 タコが釣れたの?

 そう言ってきたのは地元小学生くらいの男の子だった。どことなく祐樹くんに似ていた。彼が死んでからもう六年は経っている。彼の年齢もそのくらいだった。寒そうにコートのポケットに手を入れていた。

 堤防の途中にある階段からジャンプして浜辺に降りる。海は綺麗だが案外海ごみが多いと思ったから、その海ごみで釣りをする動画もたまに上げていた。活動家ではないから、そう頻繁にやっているわけではないけど、思うのところもやっぱりある。私の生まれ育った地域は山間だから海はないけど、県が太平洋に面しているし、それにあの事故もあったところと同じ県だから、どうしても原子力発電を賛成できない。まぁ政治的な意見はこの辺にして、祐樹くん似の彼は歩いて来た。

 「へぇ、いいじゃん。何で釣ったの?」

 「このペットボトルの竿ですわ」

 「ですわって! へぇ、すごいね! 俺にも食わしてよ」

 祐樹くんに似ているけど、祐樹くんにしては生意気な少年だった。それなのに何処か祐樹くんに似ているとお思った。

 「良いですわよ、待ってなさい」

 私は包丁でタコを切った。

 まな板は百均ではなく実家から貰った木のまな板で切った。年季の入ったまな板だが使い勝手が良く、気に入っている。元はキャンプ用だったがもう早期退職を迎えた父があげると言ってくれた。私も動画配信以外にも介護の収入があるし、困りはしなかった。

 「うまいな」

 そう祐樹似の彼はそう言った。彼は小二だという。雰囲気が少しツンとしているのに何処か祐樹君に似ていた。

 「そうでしょ」

 「ああ、ただ磯臭い」

 「海沿いの街育ちなんだから我慢しなさい」

 「絶対海水で茹でただろ、腹壊すおぞ」

 「だまりなさい、知らないお姉ちゃんにねだるのが悪いのよ」

 「相変・・わらず変なやつだな」

 私はその違和感をあまりにも祐樹君に似すぎていて気づかなかった。

 「よくペットボトルで釣れたね」

 「ええ、我ながら自分でもびっくりしましたわ」

 「変な姉ちゃんだな。新潟にはよく来るのか?」

 「今回が初めてですわ。ネットで良さげな温泉宿見つけましたから寄ったんですわ」

 「そうか、俺この街が好きだし気に入ってもらえたら嬉しい」

 「気に入りましたわ。海産物は美味しいし、まぐろの旨味は最高でしたわ」

 「そっか、俺もこの街で生まれて海産物の旨さを知ったよ」

 「あら、変な子ですわね。まるで他の街で住んだような経験があるみたいですわね」

 「住んだことはないけど、夢で見るんだよな。行ったこともない街の風景とか。なんか、あんたとも夢で会った気がするよ」

 「あら嬉しいですわ、私も何処かであった気がしますわ。でも気の所為ですわ。新潟に来るのが昨日が初めてですわ」

 「なんだもう一泊したのか」

 「ええ、そこの宿に」

 「このまま海沿い進めば加茂水族館あるから行ってみろよ」

 「詳しいですわね」

 「有名だろ、クラゲの大水槽」

 「調べずに来ましたの」

 「はっはーん、さてはB型だな」

 「あなたは何型ですの?」

 「ん? A」

 「敵ですわ」

 「敵だな。相性合わなそう」

 その割には彼は私と性格が何処か似ていた。型にはまりたくないというところとか、B型のすべてがそういう性格ではないけど、当たり前が嫌いなところとか祐樹君に似ていた。似ているくせに祐樹君に優しさとかは彼には感じなかった。

 「じゃあ、また来る。またタコ釣ってくれよ」

 「また来るんですの」

 「なんだよ嫌なのかよ!」

 「冗談ですわ、また来なさい」

 私は苦笑しながら言った。

 「ああ、じゃあな!」

 嵐のような子だった。人を巻き込みながら笑顔にする子だった。

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