第八章

 宇都宮に寄ってみた。

 栃木県はよく行くのだけど地域柄日光や那須のほうが近くって宇都宮側へはなかなか行かなかった。この街は北関東の入口の街。新幹線が通っていて、東北人である私達が最初に訪れるか通過する街が宇都宮だ。餃子の街。トチオトメの街。入社したての子が最初に降りて餃子の匂いがすると言うけど、実際駅には餃子専門がある。宇都宮駅直結のホテルビル。改札階二階には書店があり、そのエスカレーターを登るとカウンター席だけの店舗とテーブル席の同社系列の二種類の店舗が向き合う店が在る。その隣には寿司◯ざんまいがあり、その店が無い他県出身者が記念に名物社長の人気パネルの前で写真撮影をしている。

 そこでは通常の焼き餃子の他にスープ餃子があり、鶏出汁スープにテーブルに在るラー油にお酢を混ぜるのが通らしい。出汁には微かに塩も効いている。塩分大好きな東北人には嬉しい味付けで、欲を言うならここに岩塩が在っても良い気がする。でも、そういうの関東人にはしたが合わないのかもしれない。東北人は塩分摂取量が多いと言われている。冬場は保存食頼りになることが多く、塩分の多い漬物や塩魚を食べてタンパク質とビタミンを得ていたり、雪の下に白菜を埋めて保存するような土地に生まれたりした。遥か北の蝦夷地と呼ばれていた北海道の伝統的な猟師、マタギでは干し肉を保存食にしていたらしい。その文化も青森の猟師と共に継承されようとしていて。失われつつあるアイヌの言葉も小、中学校を中心に受け継ぐ活動も在るとか。

 祖父は北海道の出身だった。出身なだけでアイヌ人ではなかったけど、度々北海道への里帰りをしていた。口達者な人で、今の東海道新幹線の会社の関連会社に元は勤務していた人で、口が良いからよくヤクザに懐かれていた。そのおかげか、母は子どもの頃資産家に養子に来ないかと言われて断った経験も在るのだとか。

 母は生まれだけは京都だったがほとんどは東北で育った。

 私から見たら祖母が東北に帰りたがって、祖父を残して、祖母と暮らしていたそうだ。当時は新幹線がなく、一日掛かりで東北まで戻ったという話しは祖父の亡くなった葬式の日に聞いた。

 「美味しいね」

 秋穂が言う。

 「うん、美味しい」

 餃子を食べながら言う。

 スープ餃子初めて食べたけど美味しい。

 東北人はあまり餃子文化がない。食べないわけじゃないけど焼き餃子が多くって、宇都宮の人みたいに羽根つきにこだわりが在るというわけでもない。あと、栃木県全体が餃子文化でもないらしく、那須ではあまり餃子専門店が多くないみたいで、逆に御用邸の月が目立った感じ。仙台の萩の月みたいなもので、とある週刊誌の呪術の漫画のお陰で萩の月以外のお土産が人気になったけど、小学の修学旅行といえば仙台で、中学は東京が当たり前だった私の世代では萩の月以外が仙台土産なのはちょっとカルチャーショックだった。

 「秋穂は修学旅行どこだった?」

 「仙台」

 「高校は?」

 「ハワイ」

 「は?」

 「私コレでも◯女だよ」

 「くそ進学校が」

 「いや、当時はSSHじゃないし」

 SSHとはスーパーサイエンススクールのことで、現役中学生や高校生からは天才養成所と呼ばれていて、多少きもがられている。ちなみに、母校からJAXA職員を最低一人は出したいという目標が在るから、天才養成所というのはあながち比喩でもない気がする。ちなみに秋穂目線でも今の母校はキモいらしい。

 「今の学校は高校生クイズ出られて当たり前だけど、私の時代は多少勉強できる進学校でそんな優秀じゃ―――」

 「ああ! 私は凡人脱落勉強できない学生でしたよ―――」

 「朋ちゃん!?」

 「私は! 農業科の在る高校の普通科ですよ!」

 「大丈夫よ朋ちゃんも優秀よ。確かに文系が多くてのんびりした子が多い普通科の高校だけど」

 「あああ! 好きな人にも普通科は馬鹿しか通わないと言われるんだ!」

 「うっわめんどくさ」

 秋穂はそう言って私の頭を撫でる。根に持つぞこの、ああ、頭撫でられて極楽! (単純だな私)

 周囲のお客さんがクスクス笑っている。

 中の良い姉妹だと思われているのかもしれない。実際は婦婦(ふ〜ふなのだけど)

 ちなみにふ〜ふとは女性同士で夫婦になったことへの造語で、どちらも婦が当てはめられるから”ふ〜ふ”になったのだ。この語源は百合専門漫画雑誌である”花と百合”で掲載されていた漫画タイトルだ。

 「大丈夫だよ、お馬鹿な朋ちゃんも可愛いよ」

 「ああ! 馬鹿だと思われた」

 「いいじゃん、バカで。バカだとね絶対壁にあたってへこむでしょ? そうして落ち込んだ朋ちゃんを慰めたいの。だからバカで要領悪くて真面目でへこたれやすい朋ちゃんで居てね。たくさん慰めてあげるから」

 「……助けて、怖い人がいる」

 私は女性店員さんに助けを求めるが店員さんは顔を赤くして顔をそらした。


 店員さんの心の声(やばい、初代百合姫みたいで尊い)

 百合男子店員さんの心の声(やばい初代百合男子として、このシュチュは心に留めておくべきだ)


 そう二種類の百合に寛容な店員さんは思っていた。

 ちなみに百合男子は百合女子に謎に遠慮する癖が在るので百合女子からは面遠くさがられているのだと、ないとか。今はあの漫画買う時間無いから今どんな連載しているのか分からないけど、高校から現役で買っていた私は買った当初の高一の春の、まるでエロ本を(買ったこと無いけど。男と抱かれているし)初めて買った男子高校生の気分だった私は人目を忍んで、一冊千円の雑誌を買っていた。今では八八〇円で買えるが、当時はそのくらい高かった。

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