第七話
夕食のブッフェは豪華だった。
味の染みた湯葉汁が美味しかった。湯葉の文化のない土地から着たけど、湯葉の中には旨味もあって、その旨味も密かに主張するような感じであまりコクはないけど、でも美味しかった。湯葉って薄いイメージだけど、此処の湯葉は何層か巻かれていて少し噛み心地も楽しめる。噛み心地って言ってもそう固くはない、むしろ硬さなんか感じないものだ。私の文章力で伝えられないのが残念だけど、本当に美味しい。
あとねあとね! そう伝えたいの! お酒も美味しいんだ! 地元栃木の日光のお酒なんだけどね、吟醸酒がりんごのような香りがしてこれが美味しかった。味は中口。お酒は辛口と甘口途中口があって、辛口というのはお酒飲める人には分かるかもだけど、何だろう、味が濃くて酸味が在るのが辛口、その間が中口、甘口というのが酸味と辛味が弱くて甘みの在るお酒というイメージかな。わかりやすく言うと赤ワインと白ワイン。赤ワインは渋みが在るけど、白ワインはその渋みがなく甘く感じるワイン。ああ、全部お酒飲める人にしか伝わらない。未成年の人にはどう伝えれば良いのやら。かつて自分も未成年だったのにお酒飲めるようになってから、その頃のお酒の味の分からなさとか全然思い出せない。
あとは蟹もあった。すごいよ? 何本も蟹の足が在るの! いや蟹うまい! 日本酒に合う! あ、ちなみに別料金の日本酒です。何本も飲んだけど三千円も超えなかった。一合飲み放題五百円だけど、私は酒豪じゃないからそう散財していない。え? 一合五百円で三千円分は多い? だって合計”たった”六合だよ? 多い? 確かにいい感じには酔ってるけど、全然だよ。ちなみに部屋飲み用に何種類か買っている。
「朋ちゃん社会人になって酒豪だね」
秋穂が笑う。
私は部屋のグラスを使って飲んでいた。秋穂も酒豪だ。私と同じ量だけどケロっとしている。
「私はほら、何年も社会人しているし、朋ちゃんよりも歳上だから何年もストレス抱えて生きていて、お酒の量も増えて、白髪も生えてきていて、ハゲはクソうざいし、ああ、毒が……」
ブラック秋穂になってきた。これが愛煙者なら煙草吸いながら愚痴を聞いているのだろうが、二人とも喫煙者じゃない。
「ああ、その魚肉ソーセージうまい」
「たまに食べるとうまいよね」
「あ、これの入った昭和の喫茶店好きなんだけどわかる?」
「分かる! あの謎にちょっと量多いのが良いんだけど、それ以前に歯ごたえとか、味が昭和レトロなのがまた良いんだよね!」
「わかる! あの味がスパゲッティで一番おいしいよね?」
「そう! 私ピーマン苦手だけど食べられる」
「今度たくさん入れるね」
「うん、朋ちゃんの苦手なレバー今度作るね」
「それ秋穂も苦手でしょ!」
ちなみに前挑戦したけど、食べられるけど、好んでまた食べようとは思えなかった。あのなんか、その独特の味がなんとも言えないんだよなあ、初めて食べたときはちょっと血の味と言うか鉄分ぽくて苦手だった。よく焼けばその味も多少は少なくなるけど、やっぱり苦手だった。あ、でも馬肉専門店のは美味しかった。なんでだろう。あと謎に奨められた睾丸のスライス肉は調味料がまぶされているのか、これもおいしかった。ちなみに会社飲み会だけど、あの業界、公社のくせに体育会系多いんだ。令和だからそんなに年功序列強くないけど、雰囲気がやっぱり体育会系でなんか先輩の機嫌取りが大変でちょっと疲れる。
観光客の相手も多いけど県外の旅行会社、バス会社にプランの紹介とかするんだけど、私は窓口だから営業とかではないんだけど、まあ、色々割れれる。でも楽しいよ。私自身旅行好きだし、こういうのは民間のほうがめっちゃ言われているだろうから、それに比べたらマシな方かな。
「あ、なんかごめんね、今日、愚痴のほうが多いかな」
「ううん、朋ちゃんとお酒飲みながら愚痴れるのなんか好き」
「そう?」
顔を赤くしながら秋穂はつまみのさけるチーズと魚肉ソーセージ(小)を食べる。
「なんかお互い社会人してるなって思うし、お互い社会人として同じ世界に来たんだなって思う。ようやく二人して大人になれた」
そういう秋穂はなんか感慨深そうに窓を見た。
窓の外には鬼怒川が流れている。
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