第五話

 うん、いいよ。

 あのときの言葉、今でも嬉しい。私は日光に来た。住んでいる街から二時間程度の距離だけど、途中の東照宮まで四十分の渋滞だった。高校卒業して半年、すぐに採った運転免許で運転した。亡くなった両親がお年玉貯金をしていた。こういう時のために子ども名義で親というのは預金通帳を作るんだよっと親戚のおじさんは言っていた。彼は亡くなった父さんの弟の雅彦さんだ。親から何か遭ったときにとこういう約束事をされていたそうだ。兄も社会人になったときに口座を渡されていた。その時に車を買ったそうだが、すぐに亡くなったのは悲しいことだ。


 でも、高校卒業してからね。


 それが約束だった。

 ちょっと寂しかったけど、でも、ずっと一緒に暮らしていた。ずっと一緒に暮らす事と結婚することになんの意味があるのって思う? じゃあ、恋人と結婚して家族になるのって何が違うと思う? その人の好きも嫌いも全部愛することなんだと思う。私も当然秋穂さんとたくさん喧嘩したし、なんなら口を聞かない日もあった。でもね、家族を解消しようっと思った事は一度もなかった。だって、その程度で分かれる恋人ならその程度の人だし最初っから家族になることもない人だったんだよ。

 私もね、これでも何度か恋愛したんだよ。

 でも所詮学生の恋愛で好きだけだった。でも、秋穂さんは違った心から私のことを思ってくれたし、成績悪いときもちゃんと叱ってくれて、一緒に勉強してくれたし、仕事に愚痴ったときも一緒に泣きながら聞いたし、教頭の悪口もいっぱい言い合った。あのハゲキモいとか言いながら笑った。秋穂さんはお酒は飲まない人だった。けど、私は二十歳を迎えると煙草を吸った。その後お酒も飲んだ。日本酒、意外と美味しかった。

 「まさか朋ちゃんが観光公社で働くなんてね」

 運転する秋穂が言う。私はもう秋穂さんのことを秋穂さんとは呼ばない。日本の法律上秋穂さんが夫で私が妻だけど、こういうのは同性結婚が認められた時代でも変わらなかった。形式的なものだった。経済的な優位性とかそんなんじゃなくって単に行政的に手続きがしやすくって、こういうのはゲイの人も変わらなかった。元からこういうのって男性役、女性役で分かれることもあったけど、そういうのも今では言葉すら失くなって、単純に性格的にリードする人とされる人で分かれるんだと思う。人によるけど、私の場合はリードされる側だったかも。感情優先で秋穂を引っ張って、計画的な面では秋穂は私を引っ張った。この旅行だって秋穂が計画した。言い出しっぺは私なのに。

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