第四話
朝起きると兄が居た。
シャツ姿でネクタイを締めている。朝食のパンを食べていてテレビを日常的に見ているけど見ているのはお天気キャスターの可愛さぐらいで、その次に天気が気になって、あとはテキトーなヒットチャートを見ている。流れるニュースにはほとんど興味なくって、政治家が汚職で捕まろうが芸能人の不倫以上に興味がなかった。同時に結婚したというニュースも興味なくって、芸能人に興味が出るのは訃報のニュースぐらいだ。兄はバンド派だった。十年もずっと青森のバンドを応援していた。知ったのは単純にMVのCMからだった。同じ東北の顔を出さないバンドもあるけど、あれ以上に業界でも謎な人だった。交流は現在妻としても公私ともに支えている早川さんという女性がインディーズ時代からマネージャーのようにサポートしていた。今は多分、事務所の人が間に入っているから彼女も今は音楽家としてやっているだろう。バンド以外もスタッフの秘匿性が高く有料会員の公式ファンサイトもダラダラと日常を流すようなブログではなく、文章オンリーの
それにスタッフAの文章も落ち着いた内容だった。最後にツアーライブ告知するのも営業的ではなく、本当にアートを応援しているような感じで好感が持てた。
あの大手レーベル覇権主義だと思っていたけど、意外とアートが分かる人が社員に居るんだと思った。
「おはよう、朋」
「おはよう朋ちゃん」
秋穂さんが兄と同じように朝食を用意していた。トーストに卵焼きとサラダ、一枚のハムに二本のソーセージ。兄が生きていた頃と同じ朝食。ああ、そうか秋穂さんも兄と同じ時を生きていたんだと思った。
ベッドで死んだはずの兄が生きている夢をさっきまで見ていた。
今でも社会人で普通に兄で、普通に家族。でも不思議とそこに秋穂さんは居なかった。秋穂さんのことは嫌いではない。家族ではないとも思っていない。でも、家族であるなら死んだ両親が夢にも出るはず、でも両親も育ての祖父母も居なかった。
祖父母のことは嫌いではない。でも祖父母は祖父母であって家族ではない。枠組みでは家族だけど、私の中で家族って苦楽を共にした仲でその時間だった。だから私の中で兄が家族だった。
「おはよう秋穂さん」
私はリビングに着いた。
トーストを食べる。兄と同じ時間を過ごしたリビングに兄が食べていた頃と同じ味の朝食に兄の居ない時間が流れる。けど新しい時間には好きな人が居る。兄が好きだった人、結婚した人。私が好きになった人。やっぱり
トーストを食べながら私は言う。
「秋穂さん」
「ん? なに朋ちゃん」
「私は秋穂さんが好き」
「うん、私も朋ちゃんのこと好きだよ」
「ありがとう。だからね秋穂さん」
”結婚して”
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