第二話

 「明るい人達だね」

 秋穂さんが言った。昔から明るい人が多い親戚たちだ。それでも個人主義者で助けが欲しいときは言ってねという。過度なおせっかいはない。ただ今回はデニーズで食べた。悲しいときは無理にでも美味しいもの食べてたくさん泣かないといけない。そうして前をむくんだ。そう言われた。でも、私はまだ泣けていない。秋穂さんもまだ泣いていない。なんだか泣けないんだ。悲しいという気持ちと喪失感があり、喪失感のほうが大きい。胸になにか大きな空洞が空いていて、その中でなんだか現実感のない寂しさがある。

 火葬までした、兄の骨も皆で拾った。意外と軽かった。白い骨と棺桶に入れられた花の燃えた色がついた。なんだか薄く絵の具でピンク色にしたような、黄色に薄く塗ったような奇妙な色が骨に染み付いていた。それが花の色だと分かったのは火葬場の職員さんが教えてくれたからだ。”これが頭蓋骨で此処に眼があります” ”これが喉の奥にある喉仏でお釈迦様が手を合わせているように見える骨です”と教えてくれた。前にも聞いた。両親が死んだときに幼いながらも覚えていた光景だ。

 「うちの親戚皆、明るいから」

 家に帰って部屋を照らす証明の明かりを着けた。

 「あの人ね真弓さんって言ってね、親がなくなった時、色々と助けてくれたの。引き取ろうかと、言ってくれた人」

 「朋ちゃんのこと?」

 「うん、未成年の私達を拾おうとしてくれた。でも断った。おばさんにも家庭がある。でも、未成年後見人にはなってくれた。そういえば、今の私の保護者は秋穂さんになるんだね」

 「そうね、書類書き直さないと」

 そう言いながら秋穂さんは私を抱きしめた。

 秋穂さんの温かなぬくもりを感じる。背中に秋穂さんの胸を感じる。首の近くで秋穂さんの顔が当たる。

 「好き……」

   秋穂さんが言う。彼女は弱っている。結婚する相手が先立ってしまって、これから幸福な毎日を送るはずだった相手の葬式に出て、その血の繋がった妹と保護者としてこれから一緒に過ごす。ヘビーだと思う。私のこと嫌いになってもいいと思う。自分のこれからの幸せのために私と離れて保護者とか、恋人の妹とか、そういう社会的な責任よりも未来の自分の幸せのために生きていてほしいと思う。思う……、反面なんだろう私もモヤモヤする。私は秋穂さんの腕に手をやる。秋穂さんに顔を向けると彼女はキスをした。初めてのキス。秋穂さんは温かい涙で濡れていた。それは私の涙だった。

 「ごめん!」

 驚いた秋穂さんが唇を離す。

 「違うの! いやじゃないの! でも、なんだか嬉しいのに、本当に嬉しいのに私と一緒に家族になってよかったのかなって思って、あ、兄を差し置いてこんな、こんな嬉しい気持ちになってよかったのかなって、思って・・・・・・・・・・・」

 自分で言ってて支離滅裂で何を言っているのか分からなかった。でも、嬉しいとか思っていた。最低な妹だと思った。

 そしたら秋穂さんは私を抱きしめた。今度は背中越しではなく、向かい合って、秋穂さんの胸に顔を埋めた。

 「私ね朋美ちゃんと家族になれて本当に良かったって思ってる。祐樹くんの事本当に好き。愛してる。男の人を好きになれないんだって思ってたけど、祐樹くんは特別なんだね。優しくて、大人っぽくて、眼鏡掛けてて、でも何処か弱くて明るいい人。そして、ほんとうは泣き虫。朋ちゃんみたい」

 そう言って秋穂さんは私をソファに押し倒した。秋穂さんは服を脱いだ。白いブラが見える。

 悲しそうな表情をして笑いながら秋穂さんは私を抱く。

 「私ねレズビアンだって言ったよね。嫌なら言ってね」

 そう言いながら私を抱くが、私は秋穂さんを抱きしめた。腕だけじゃなくて足も腰に回した。同意だよって言いたかった。

 「私も秋穂さんが好き、初めては秋穂さんが良い。抱いて」

 そう言うと秋穂さんは激しく私を抱きしめた。ブラウスを脱がして下着姿になった私の首にキスをした。吸い付くように。

 「キスマーク着けた」

 「うん、いいよ」

 秋穂さんになら何されても良かった。キスもセックスも、何も怖くないし嬉しい。

 

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