第一話
お風呂のあとアイスを食べた。
温かいコーヒーにセブンで買ったアイスを入れる。甘ったるいコーヒーアイスが口の中に広がる。悲しいことや辛いことが会った時、コーヒーとアイスの甘さが美味しく感じる。隣で秋穂さんが飲みながら美味しい? と聞いた。私は美味しいと答えた。秋穂さんは微笑んでからスプーンでアイスを溶かしながらコーヒーを飲む。
「私ねコーヒー好きなの。でもきっとこの飲み方は邪道なんだね。でもね、私のお母さんが死んだ時、甘いものと合わせると落ち着くの」
そう、秋穂さんは言った。アイスの溶けたコーヒーは薄茶色になっていく。飲むとバニラの香りとコーヒーの温かさが相まって落ち着く。ミルクには落ち着かせる効果があるという。コーヒーは逆に興奮作用がある。葬式のあとだと、そのふたつの効果がもしかしたら化学反応を起こしているのかもしれない。
「兄とはどう付き合ってたの?」
「高三の秋頃、祐樹くんの方から告白してくれたの。その前からお互い好きだって気づいていたけど、本当に交際したのはそこから」
「どうデートしてたの?」
「学生の頃は殆どなかったよ。LINEのやり取りとたまに電話。でも、卒業したらドライブとかたまにしてたな」
週末に出かけていた事があったがそういうことだったんだ。友達が多い方ではなかったが少ない人でもなかった兄がよく出かけていたのはそういうことだったんだ。それでも頻度はそう多くはない。兄はよく朋美といる時間を大切にしてくれた。
「朋美ちゃんの話し、よくしてたよ。自慢の妹だって」
「何を自慢することがあるのやら」
勉強も運動も平凡な妹だと自分では思う。だが秋穂さんはコーヒーを半分まで飲みながら言う。
「よく言ってたよ、親が死んでから、俺のことをよく支えてくれたって」
「何もしてないけどなぁ」
「朋美ちゃんは明るいから、それが助けになるんだよ」
「私、明るい?」
「明るいよ」
そう言いながら秋穂さんは私を抱き寄せた。「そして優しい」と秋穂さんの胸を頬で感じながら、寂しい気持ちを和らげるように私は猫のように抱きついていた。
「好きだったなぁ……」
「今でも好きなんでしょ」
涙をこらえそうな表情をしていた秋穂さんに朋美は言うと、少し驚いた表情をした。そして、優しい笑みを浮かべながら「そうね、今でも好き」と言った。
納骨の日、親戚たちが集まって石工の人がお寺さんと皆に見守られながら骨になった兄を埋葬した。うちの宗派は骨壺のまま埋葬する。他の宗派は知らないけどこうしてる。その後、墓石を元に戻してあとは接着剤のようなものをやれば納骨は終了だ。
「本日はありがとうございました」
そう秋穂さんと一緒に親戚とお寺さんに挨拶した。親戚も普段は兄同様に明るいのに、この日ばかりは静かにお辞儀した。
「朋ちゃんおばちゃんと一緒に御飯いかない?」
気を遣った親戚の真弓さんがそう言った。久しぶりに良いかなと思った。
「行ってきなよ」
そう秋穂さんが言うのだが「あら、何言ってんの? あなたも行くのよ」
「え?」
「何、えって、あれと結婚したんでしょ? ならあなたも家族でしょ」
そう言ってほとんど強引に秋穂さんを車に乗せた。
「しゅっぱーつ!」
そう言って真弓ちゃんは車を走らせた。同じく同乗しているおチビたちも元気よくしゅっぱーつ! と言う。ちなみに六歳と七歳だ。
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