第60話

 ステンドグラスから光が差し込む祭壇の前で、珈涼は夫と向き合いながらこの八年を思っていた。

 二人の間には、大希が生まれてまもなく涼真が授かった。二人の息子を育てるのと若頭の妻としての仕事で毎日が慌ただしく、籍は入れたものの結婚式はずっと挙げないままだった。

 夫は忙しい身だが今も珈涼を何より守ってくれて、二人の息子たちにも愛情をたっぷり注いでくれる。珈涼は自分を囲んでいるその幸せで十分で、今回の旅行を聞いたときだって、「ママは留守番しているよ」と断りかけたのだった。

 でも大希は「行こうよ」と彼らしく強く主張して、涼真は「母さんも一緒じゃないと俺も行かない」とごねた。最終的に、夫が「珈涼に来てほしい」と言うから、家族旅行だと思って飛行機に乗ったのだった。

 そう思っていたら……まるで夢の続きのような光景が、目の前に広がっている。

 天使に扮した大希と涼真が花束を携えて最前列で笑っていて、列席者の中には父も母も兄も、不破や豆子も……そして姐まで、祝福に訪れてくれた。

 夢のような気持ちで夫と唇を合わせると、彼はふいに懐かしい呼び方をした。

「珈涼さん」

 珈涼が目を開いて問うように首を傾げると、夫は珈涼だけに聞こえるように言った。

「……今夜は、あきひろと呼んでください」

 甘い声音を聞いて、珈涼は今も少女の心を揺らして顔を赤くする。

 二人の八年ごしの結婚式、それから二人の日々はにぎやかに、永く続いていくけれど。

 二人の間にもう一人赤ちゃんが授かったのは、あとほんの少し先の話。

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