エピローグ 夢の続き
第59話
月岡と再会して八年が過ぎた頃、珈涼は家族で海外旅行をしていた。
夫と二人の息子、
八歳の大希は朗らかだが、極道の息子らしく平然と自分の主張をしてみせた。
「母さんならあの服似合うよ。買って、今度の親父とのデートに着たら?」
ショーウインドーで胸の開いた赤いドレスをみつけて、にっこり笑いながらそんなことを言う。
珈涼は息子の笑顔にたじたじとなりながら返す。
「ひろくん……ママがあんなドレス着たら、パパはびっくりしちゃうよ」
「そうかな。親父、喜ぶと思うな」
「母さん、あっち見て!」
ふいに七歳の涼真が珈涼の袖を引いて、元気いっぱいに言う。
「舟に乗れるんだって! 俺と乗ろ!」
涼真は甘えっ子だが兄に負けず劣らず自己主張が強く、珈涼はあっちこっちに袖を引かれる。
珈涼はためらいながらも涼真に言葉を返す。
「りょうくん、ママ、これからパパと行かなきゃいけないところがあるから」
「親父かぁ……わかったよ」
涼真はわがままだが、父の言うことにはきちんと従う。二人とも、父親に似て上下関係はよく理解している子どもたちだった。
夫の教育が行き届きすぎて、二人はもう珈涼のことをママと呼んでくれない。ちょっと寂しい珈涼だったが、夫にそう言うと「珈涼が一番子どもみたいだよ」と笑われる。
夫とは宿泊中の古城のホテルで再会した。夫は飛びついてくる息子たちと遊びながら、珈涼に言葉を投げかける。
「海は見れたか?」
「うん、あなた。日本とは色が違うのね」
珈涼が夫を月岡さんと呼ばなくなって久しい。今は珈涼も月岡の姓で、彼の妻としての自分も気に入っていた。
珈涼はふと夫を見て、今もなお均整の取れた長身に似合うその姿にみとれる。
「あなたって変わらないのね。どこに行っても仕事しちゃいそう」
夫は白いタキシード姿の正装をしていて、珈涼ははにかみながら言った。
夫は悪戯っぽく首を傾げて苦笑すると、珈涼に箱を手渡した。
「ここまで来て仕事はしたくないな。さ、これを着ておいで」
珈涼は夫に渡された箱を開けて、その中身を見るなり首を傾げる。
「白いドレス……? でも教会にドレスでなんて、まるで」
珈涼は何かに気づいて、はっと顔を上げた。
二人の間にひととき時が流れた。珈涼は夫をみつめて、夫はそんな珈涼を見下ろしながら微笑んだ。
「教会で白いドレス」
夫は珈涼に、いつかの果たせなかった約束を口にする。
「覚えているよ、ちゃんと。盛大にしようと言っただろう?」
珈涼が驚いて何も言えないでいると、夫は珈涼の肩を叩いて言った。
「行こうか。……私たちの結婚式に」
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