第47話

 それはあの日と同じで、月岡の一方的な行為で始まった。

 もう数えきれないほど月岡と珈涼は甘い夜を過ごしてきたが、初めてのあの日、二人の心は完全にすれ違っていた。月岡は自らの欲に目がくらみ、珈涼はただ怯えていた。

 けれど今の珈涼は、それを月岡の暴力にはしなかった。月岡の足に足をからめ、キスの合間に彼の名前を呼んで、彼と悦楽を共有した。

 床の上の行為は初めはひどく痛むものだったが、次第に体はほてって痛みはかき消された。

「ん……もっとひどくして、いいのに」

 珈涼がそう告げた頃には、月岡の行為はだいぶ優しいものに変わっていた。肌に食い込むほどだった指は珈涼の頬をそっと撫でて、渇望するような目は珈涼を酔うようにみつめていた。

 次第に二人とも余裕がなくなって、言葉より短い呼吸でお互いを確かめていた。

 珈涼は月岡を包み込むように受け入れながら言う。

「……あのときだって、好きだったけど」

 珈涼は涙のにじんだ目を閉じながらささやく。

「今はあのとき想像していなかったくらい、あきひろが好きなの……」

 少しの間、珈涼は意識を失っていた。

 頂点から降りてきて、珈涼も小さな夢の中に入ったとき、思い出したことがある。

 あの日の翌朝、目が覚めた珈涼は一人だった。けれど月岡は夜の間、彼女の体を抱いて何かささやいた。

 珈涼の背を撫でながら、髪に顔を埋めながら、月岡は苦しむように打ち明けた。

「俺を許さなくていい。どんなものより欲しいんだ」

 その声が、そのとき聞いたものだったのか、意識の外で月岡が告げたのか。珈涼と月岡の夢は間もなく混ざり合った。

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