双生児

「畜生腹」だと「不吉」だと罵られた。

 とある山間の寒村で双子を産んだ母親、愛坂良子はイラついている。

 老害どもめ。こんな村、出て行ってやる。


「慎一さん、引っ越しましょうよ。うんざりだわ」

「ん? ああ、そうだな。お前には辛い思いをさせた」

「これ以上耐えられない……なんで双子なんか生まれたのよ…………」


 父親である愛坂慎一は、妻の肩を抱いた。


「こんなボロ家捨てて、綺麗なマンションを買おう。な?」

「そうしたいわ…………」


 息子たちの名前は、兄が狂次。狂わず、その次の冷静でいられるように。

 弟が慧三。賢くいられるように。

 慎一の父母は、片方間引けと言ってくる。そんなことは出来ない。

 馬鹿らしい因習。今は、平成なのに。

 良子は、村の年寄りたちを軽蔑した。

 考え事をしているうちに、ふたりの赤子が泣き声を上げる。


「はいはい…………」


 双子を抱き上げてあやした。


「昼はいいけど、夜は泣かないでほしいわ」


 赤子に言っても仕方ないが。


「はぁ…………」

「じゃあ、工場行くから」

「ええ。いってらっしゃい」


 夫を見送り、双子をおぶりながら家事をする。

 そんな日々が続き、良子は育児ノイローゼになった。

 可愛いくない。役に立たない。

 私の人生は、どこ?

 やっぱり殺した方が?


「…………」


 良子は、慧三の首に手をかけた。

 その時、慎一が帰宅する。


「ただいま~」

「……おかえりなさい」

「良子、引っ越しの目処が立ったぞ」

「本当? よかった…………」


 一週間後。愛坂家は、この村よりは都会の千葉県のマンションに引っ越した。

 口うるさい年寄りや煩わしいご近所付き合いから解放され、良子は少し楽になる。

 ところで良子は、双子を産んでから、金銭出納帳をつけていた。

 いつか、全てをふたりに返済してもらうために。それを慎一に言うと、「ちゃんと親に恩を返す息子たちに育てよう」と肯定的だった。

 それから、ここには保育園があるので、双子を預け、パートで働くようになる良子。

 そして、月日は流れて。

 狂次と慧三は、幼稚園児になった。

 日曜日。「おかあさん」と、ふたりが呼ぶ。


「なに?」

「けいぞうくんと、こうえんにいってきます」

「いってきまーす」

「危ないことはするんじゃないわよ。あと、門限を守りなさい」

「はい」

「はーい」


 ふたりを送り出し、良子は溜め息をついた。

 早く、親孝行してほしいもんだわ。

 煙草に火を着けて、ふーと息を吐いた。

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