双子
廃工場にて、始末屋としてターゲットと相対している愛坂狂次。
「…………」
拳銃を取り出すと、あちらも拳銃を出してきた。
銃を撃ちながら、ターゲットに近付き、近接戦をしかける。
相手の弾が頬をかすめた。
「クソっ!」
双方弾切れになり、ナイフを取り出す。
「テメェ、愛坂! 俺が教えてやった技で、俺を殺すってのかぁ?!」
「はい」
男は、養成所で講師をしていた殺し屋だった。
両者譲らず、ナイフでの戦闘は続く。
久し振りに手強い相手だと感じる狂次。
腕を取られ、取り返し。足払いを避けられ、ターゲットの刃をかわす。
攻防の末、狂次のナイフがターゲットの二の腕に突き立てられた。
「ぐっ! この恩知らずがぁ!」
「…………」
それでも男は、ナイフを握り締めて向かって来る。
狂次は、避けることに専念した。
やがて、男の様子に変化が起きる。
「はは……毒か…………」
落としたナイフが、からんと鳴った。
「あなたのおかげで、これからも殺し屋を続けられます」
「クソ……ガキ、が…………」
「さようなら」
倒れた男が事切れたことを確認し、任務完了の連絡をする。
しばらくして、回収屋がやって来た。
「愛坂さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です」
「では、後はやっておきますんで」
「はい。よろしくお願いします」
回収屋と別れ、頬の傷に絆創膏を貼り、狂次は帰路につく。
今回の相手は、相当な強者だったので、一千万円の報酬が支払われた。
帰宅し、コーヒーを飲んでいると、スマホにメッセージが届く。
『遊びに行くよ~』
弟の慧三だった。了解、と返信する。
十五分後。インターホンが鳴らされ、慧三を部屋に上げた。
「どうかしたのですか?」
「いや、別に。きょーちゃんに会いに来ただけ~」
「そうですか」
「うん」
慧三は、いつもの軽薄な笑みを浮かべていたが、兄を独りにしないために自分がいると思っているので、こうしてやって来たのである。
今日、来たのは、なんとなく狂次が疲れているような気がしたから。
そしてそれは、兄の頬の絆創膏を見て、確信に変わった。狂次は、戦ってきたのだろう。
「きょーちゃん」
「はい」
「お疲れ様」
「ありがとうございます」
ソファーに並んだふたりは、ぽつぽつとなんてことない話をした。
慧三がギャンブルに負けた話とか、狂次が読んでいる小説の話とか。
生まれた時から一緒だった。共に人殺しになった。お互いが、たったひとりの家族。
愛坂兄弟は、今日もふたりだった。
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