警戒線
昨年の日本の行方不明者の数は、9万144人。
私の仕事は、行方知れずになった人の捜索である。
今回探しているのは、若い女性。依頼人は、彼女の母親。警察に届けたが、進展がないので私が雇われた。
地道に聞き込みを続けていると、彼女の足取りが新宿の繁華街で途切れていることが分かる。
そして。シーシャ屋の店員曰く。
「その人ねぇ、確か、けいちゃんと一緒にいたなぁ」
「けいちゃん?」
「この人」と、スマホで画像を見せてくる店員。
そこには、長い金髪を緩く一本の三つ編みにした伏し目の男がいた。いかにも胡散臭い印象のチャイナ服を着ている。
「フルネームは?」
「知らない。あんまり客のプライベートに首突っ込むのもねぇ」
「そうですか。ありがとうございました。失礼します」
私は、“けいちゃん”の画像をもらってから、その男について調べることにした。
すると、ドラッグの売人らしき男に行き当たる。
「この男、知っていますか?」
「さあな」
「あなたの客、そうですよね?」
「知らねーよ」
仕方ない。このテの輩は話してくれないだろうから、他を当たろう。
日が暮れてきた繁華街を歩いていると、画像の男と似た風貌の者を見付けた。
長い金髪をきっちりと一本の三つ編みにしていて、包帯とガーゼで目元が隠れているスーツの男。“けいちゃん”と関わりがないとは思えない。
「すいません」
「はい」
「この人、ご存知ですか?」と、スマホを見せる。
「私の弟ですが」
「弟さんの居場所って分かります?」
「分かりません。決まった住居がないので」
「そうですか。弟さんの名前は?」
「あなたから名乗るべきでは?」
「失礼しました」
名刺を差し出した。
「……興信所の方ですか」
「はい。この女性に見覚えは?」
「ありません」
ハズレか。そう思ったのだが。
「呼び出しましょうか? 弟の慧三を」
「えっ。いいんですか?」
「はい」
「お願いします」
メッセージを送る“けいぞう”の兄。
数分後。
「鶯谷のホテルにいるそうです。こちらには来れないようですね」
「分かりました。今から向かうと伝えてください」
「はい」
彼がいるというラブホテルを教えてもらい、早速向かう。
そして、辿り着いた時。
ホテルの部屋の外。入り口の前に停めてある車に寄りかかって煙草を吸っている彼がいた。
「きょーちゃんが言ってた人?」
「きょーちゃん?」
「あ、今のなーし。オレ、愛坂慧三。なんの用?」
「この女性、行方不明なんですが、最後に会ったのはあなたかもしれなくて」
慧三さんは、軽薄そうな笑みを一瞬消す。
「その子、いなくなっちゃったんだ。心配だな~」
「何か知りませんか?」
「んー。心当たりあるよ。彼女、クスリやってたんだよね~。行ってみる? ヤク中の溜まり場だけど」
「……行きます」
慧三さんが運転する車の助手席に乗り、移動する。
「着いたよ」
彼に案内され、廃墟となったアパートの一室に入った。
「ここじゃないのかな~」
誰もいないように見える。
「あ、イヤリング落ちてるじゃん。こんなのつけてた気がする。ほら、これ」
「……えっ?」
私の首に、何かが刺された。
「な…………」
「あーあ。ダメだよ、そんな量を一気に打ったら~」
慧三さんが引き抜いたそれは、注射器。
「ここでODして死んでるヤク中って、ぜーんぜん珍しくないんだよね」
最後に聴いたのは、彼の笑い声だった。
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