毒を食らわば皿まで
バスソルトと称して売られていた危険ドラッグを吸い、ハイになった男は街に狩りに出た。
ターゲットは、ひとりで歩いている若い女。
「オネーサン、ちょっといい?」と、ナンパするみたいに声をかける愛坂慧三。
「はい?」
「道を教えてほしいんだけど」
話ながら女に近付き、ナイフで胸を一突き。そして、ナイフを捻る。
「オネーサンは、善い人かな? 先に、あの世へ逝ってね~」
「あ……ぐ…………」
「バイバーイ」
慧三は、笑顔で女が息絶えるのを見届けた。
返り血を浴びないようにナイフを抜き、財布から金を盗む。
そして、何事もなかったかのように、人混みの中へ消えて行った。
人を殺すのは、楽しい。ついでに、金も手に入る。
慧三は、気ままに殺す。これからも、そうするだろう。
その後。現在ヒモをしている女の家に帰り、ナイフの整備をした。
「ふんふんふーん」
鼻歌交じりにナイフを綺麗にする。食器用中性洗剤で油を落とし、乾いた布で拭いた。
女は、仕事で留守にしているため、慧三の裏の顔はバレない。
「よし!」
鈍く光る銀色のナイフを見て、慧三は満足した。
それから、チャイナ服からスウェットに着替えて、暇潰しにテレビをつける。
撮影スタジオに押し入り、バラエティー番組の出演者たちを脳内で殺して、ひとりで笑った。
そうしていると、双子の兄、愛坂狂次からメッセージが届く。
『仕事で、しばらく家を空けます』
『りょ』
『がんばってね~』
弟は、軽く返信をした。兄は、優秀な殺し屋だから、特に心配はしていない。
かつて、東京とは比べ物にならない田舎に住んでいた頃。ふたりは、同じ日に人殺しになった。
今となっては、古びたアルバムをめくるような記憶。昔は、閉じた家庭が世界の全てだった。
ふたりを殴る父親と、ふたりを詰る母親。殺されても仕方ないと慧三は思っている。
天国はあるのだろうか? 地獄はあるのだろうか?
あの世があるなら、まだまだ遊べる。慧三は、とにかく楽しく過ごしていたいのだ。意識がある限りは。
オレも、きょーちゃんも“人殺し”になっちゃったんだから、一緒に地獄に逝こうね! ずーっと、地獄でも人殺そうよ!
この世では、ふたりで人を殺すことはないだろうが、それぞれ殺し続けていけたらいい。
あの世では、ふたりで地獄に送った両親でも一緒に殺せたらいい。
不真面目な男は、真逆の性格の兄を想う。
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