毒をもって毒を制す

 今回のターゲットは、協会の掟を破った殺し屋である。

「やれやれ」と、愛坂狂次は溜め息をついた。


「始末されてたまるかぁ!」


 ターゲットの男は、ナイフを片手に狂次を相手どるつもりらしい。


「申し訳ありませんが、仕事ですので」


 淡々と、冷静に話しかける狂次。相手に合わせて、懐からナイフを取り出す。


「参ります」


 宣言してから、男に接近して行く。

 そして、男がナイフをナイフで防いだところで、いつの間にか左手で持っていた拳銃で、体を二発撃った。


「え?」

「仕事だと言いましたよね? あなたと遊んでいる暇はありません」

「テメェ…………」

「さようなら」


 頭に一発。狂次は、速やかに仕事を終えた。

 回収屋に連絡をしてから、狂次は一息つく。

 同業者を殺す時は、多かれ少なかれ戦闘が生じる。愛坂狂次は、負けたことはない。負けていたら、こうして立ってはいないだろう。

 協会に逆らうから、そうなるのですよ。

 狂次は、特になんの感慨も持たずに死体を眺めた。

 数分後。回収屋が死体を片付けてから、今回の報酬が振り込まれ、ひとりで帰宅する。

 いつも通りに硝煙を消し、シャワーを浴びて着替えた。リビングのソファーに座り、テレビをつけてニュース番組を流す。

 協会では、同僚を殺した者は、“始末屋”として恐れられていた。あまりやりたがられない仕事だが、狂次は機械的に任務を遂行するため、協会の上層部には重宝されている。

 例え、仕事で組んだことのある相手でも、親しかった者でも、狂次は躊躇わずに殺せるだろう。

 そんな薄情にも思える愛坂狂次だが、絶対に殺せない存在があった。

 それは、双子の弟の愛坂慧三である。慧三を協会に入れなかったのも、その辺りに理由があった。

 慧三は、組織に属するには、奔放過ぎる性格をしているため、すぐに粛清対象にされかねない。

 だから、狂次と慧三の“殺し”は、別たれていた。

 唯一の血縁者。たったひとりの家族。大切な弟。

 兄として、彼を守りたい。弟には、自由に生きてほしい。

 そのためなら、どんな困難な仕事でもこなしてみせる。

 愛坂狂次には、その覚悟があった。

 沈んでいた意識が浮上する。スマホが震えていた。


「はい」

「愛坂さん、今度、長期の任務についてほしいんですが、行けますか?」

「ええ。大丈夫です」

「では、詳細はメールしますので、よろしくお願いします」

「はい」


 しばらく家を空けるなら、慧三に連絡をしよう。

 狂次は、そう考えてから、日課の拳銃の組み立て訓練をした。

 生真面目な男は、真逆の性格の弟を想う。

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