アヴェンジャー

 日曜日。小学生男子は、ひとりでブランコで遊んでいた。

 その公園に、異様な風体の男がやって来る。

 包帯とガーゼで両目が隠れている、黒いスーツの男。

 男は、ベンチに座ると、コンビニのビニール袋から弁当を取り出して食べ始めた。

 少年は、好奇心からブランコを降りて、彼に近付く。


「お兄さん、なにしてる人?」

「殺し屋です」

「あはは。そうなんだ」


 男、愛坂狂次の発言を冗談だと思った少年は笑った。


「殺し屋って、ろうさい? 出るの?」

「はい」

「今日は、お休み?」

「いえ、仕事の休憩中です」

「へー。お疲れさま」

「ありがとうございます」


 男は、焼き肉弁当を食べながら、子供の相手を続ける。


「それ、ケガしてるの?」

「いえ」

「なんで包帯?」

「秘密です」

「なんだよー」


 不満そうにする少年。狂次は、黙々と肉を食べている。


「名前、なんていうの?」

「愛坂狂次と申します」

「きょうじは、カノジョいる?」

「いませんよ」

「おとななのに?」

「大人だからといって、必ずしも恋人がいる訳ではありません」

「ふーん」


 徐々に日が傾いてきた。

 狂次は、ゴミをまとめて、立ち去ろうとする。


「それでは、失礼します」

「バイバイ、きょうじ」

「さようなら」


 子供と別れて、ゴミを捨ててから、男はターゲットの元へ向かう。

 ターゲットの片方の男が自宅に入るところだったので、ドアの隙間に靴先を入れ、閉めるのを阻止した。


「なんだ?!」

「こんばんは」

「だ、誰だ、お前?!」

「名乗るほどの者ではありません」


 家の中に押し入り、サイレンサー付きの銃で、男を撃ち殺す。

 靴を履いたまま奥へ進むと、ターゲットのもう片方、殺した男の妻がいた。


「あなた、なに…………?」


 女の震える声を無視して、狂次は、頭と心臓を撃つ。骸になった女は倒れた。

「任務完了」と、スマホで連絡する。

 その時。


「ただいまー!」


 子供の声が聴こえた。


「お、お父さん?!」


 死んでいる父親を見たらしい。

 狂次は、玄関の方を向いて、姿勢よく立っている。


「お母さん! お父さんが!」

「こんばんは」

「きょ、うじ?」


 帰ってきたその少年は、公園で会った子供だった。


「きょうじが殺したの……? ぼくのお父さんとお母さんのこと…………」

「はい」

「う、うわあぁッ!」


 少年は、泣き叫びながら、狂次の体をめちゃくちゃに殴る。


「そんな拳では、私は殺せませんよ」

「どうして? どうしてだよぉ!」

「大人になったら、復讐しに来てください。では、失礼します」


 呆然とする少年を残して、狂次は立ち去ろうとした。


「さようなら」


 振り返らずに、玄関から出て行く殺し屋。

 少年に宿った復讐心は、彼を生かすだろう。

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