インタビュー・ウィズ・シリアルキラー

 夜。愛坂慧三は、女をナンパしていた。


「オネーサン、オレと遊ばない?」

「え? 私、ですか?」

「そうだよ。綺麗な髪のオネーサン」

「ありがとうございます。えと、よろしくお願いします」

「じゃ、とりあえず、バーでも行こっか? オススメのとこがあるんだ~」

「はい」


 慧三は、女に自己紹介しながら、バーへ向かう。


「あの、慧三さんのお仕事は?」

「マフィアだよ」

「ええっ?! 冗談、ですよね?」

「どうかなぁ?」


 確かに、チャイニーズマフィアのような出で立ちではあるが。


「マスター、サイドカーひとつ。オネーサンは、なに飲む?」

「私、カクテルに詳しくなくて……慧三さんのオススメは…………?」

「じゃあ、ピーチフィズはどう? 桃好き?」

「はい」

「マスター、カノジョにピーチフィズひとつお願い」


 注文を済ませ、ふたりは会話を続けた。


「慧三さんって、おいくつなんですか?」

「オレ、27歳」

「そうなんですね。あ、私は、28歳です」

「そうなんだ。近いね。嬉しいなぁ」


 慧三は、ニコリと笑う。


「どうして、私みたいな地味な女に声をかけたんですか?」

「えー? 好みのタイプだったからだよ」

「そ、そうですか。お世辞でも嬉しいです…………」

「お世辞じゃないよ!」


 慧三は、女好きである。女なら、大抵は彼の好みの範疇だ。


「私、ナンパされたのって初めてで……すいません…………」

「なんで謝るのー? オネーサン、可愛いんだから、笑って?」

「かわっ!?」


 可愛くないです、と女は小さな声で言った。

 そうこうしているうちに、バーテンダーがカクテルを作り終える。


「オレたちの出会いにカンパーイ」

「乾杯っ……」


 ふたりは、カクテルを飲んだ。


「やっぱり、可愛いオネーサンと飲むと最高だね」

「このカクテル、凄く飲みやすいです」

「でしょ~?」


 慧三は、ギザギザの歯を見せて笑う。


「慧三さん」

「ん?」

「本当に、マフィアなんですか?」

「似たようなものかなぁ。人殺しだし」

「人、殺し……?」

「最初に殺したのはねぇ、母親だったよ。いわゆるモラハラってやつ? そういうことしてくる人だったからさぁ、ムカついて殺しちゃった」

「そう……ですか…………」


 女は、何を言えばいいのか分からずに、ただ相槌を打った。


「その後は、まあ、気分で殺したり殺さなかったり?」

「…………」


 愛坂慧三の語り口は、妙に真実味を帯びている。女は、彼のことが段々怖くなってきた。


「私、帰ります……」

「ダメダメ。オネーサンは、サイドカーに乗っちゃったんだから」


 サイドカーは、女殺しの異名を持つカクテルである。それは、口説き落とすという意味か、それとも…………?

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