ポイゾナス・ランチタイム

 ファミレスに、異様な男たちがいる。

 ひとりは、イギリスの高級ブランドのスーツと革靴。そして、たぶん香水も。それだけでも場違いなのに、男の両目は、包帯とガーゼで完全に隠れている。

 その男と向かい合っている男は、フィクションのチャイニーズマフィアみたいな格好をしていた。そして、昼間からワインを飲んでいる。

 私は、このふたりが兄弟なんだろうと推測した。何故なら、髪色や髪型や背格好、そして、笑った時に見えるギザギザの歯が同じだから。

 包帯男は、チャイナ男に、「きょーちゃん」と呼ばれていて。チャイナ男は、包帯男から「ケイゾウくん」と呼ばれている。

 ケイゾウくんがワインをかぱかぱ飲んでいる一方で、きょーちゃんは、行儀よくイカスミパスタを食べていた。


「きょーちゃんも飲もうよ!」

「私はいりません。慧三君が全部飲んでください」

「てか、きょーちゃんなんでファミレス来たの? 金いっぱいあるでしょ?」

「ここが好きだからですよ」

「安上がりな舌だねー」


 きょーちゃんは、生ハムとモッツァレラチーズを食べる。

 私は、自分のテーブルのソーセージピザを食べながら、ずっとふたりを観察していた。


「慧三君は、金を稼ぎましたか?」

「昨日、パチンコ勝ったよ」

「そうですか」


 どうも、きょーちゃんは“兄”っぽい

 でも、おそらくまともな職についてないギャンブラーな弟に、説教をしたりはしない。

 そして、一時間後。ふたりは店を出た。

 私は、こっそりとついて行く。

 長身の男たちに置いてかれないように。でも、バレないように気を付けた。

 そして、曲がり角に差しかかって、急いで私も曲がった時。

「オネーサン、オレらになんか用?」と、チャイナ男に言われた。


「あの、えと、違います…………」

「慧三君、やはり素人ですよ。行きましょう」

「オレ、オネーサンと遊ぶ~」

「そうですか。では、私は帰ります」

「じゃあね、きょーちゃーん」


 嫌な予感がする。頭の中でサイレンが鳴っている。

 逃げようとしたら、チャイナ男に腕を掴まれ、口を塞がれた。


「逃げないで。声出さないで」


 そう嫌に優しく囁くと、私の喉をナイフで切り裂く。


「かひゅっ…………」

「もう助け呼べないねぇ」


 男は、歯を見せて笑った。


「さよなら、オネーサン」


 胸を抉るナイフ。激痛と絶望の中、私は意識を失う。

 その少し前に頭の中に過ったことは、「好奇心は猫を殺す」というイギリスのことわざだった。

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