スイート・トキシック

「大好きだよ、慧くん」と、甘ったるい声で女が言った。


「オレも大好きだよ~。お仕事がんばってね!」

「うん。いってきます」

「いってらっしゃい」


 愛坂慧三は、笑顔で女を見送る。


「さーて、どうすっかなぁ」


 煙草、ハイライトを吸いながら、スマホを触った。

 他の女からきたメッセージに返信し、煙草を灰皿に押し付ける。

 伸びをしてから、スウェットから、チャイナ服に着替え、アパートの外へ出た。

 そして、パチンコ屋へ向かう。数時間後、女からもらった金を見事に溶かし、慧三はイライラしながら店を出た。

 コンビニ前に設置された灰皿の側で煙草を吸い、「ふー」と煙を吐く。

 慧三は、密かにコンビニから出てくる客を観察している。

 しばらくして、独身らしいくたびれたスーツの男が出てきた。その男を尾行する。

 そうして、人のいない小道で、慧三は男に声をかけた。


「オニーサン、なんか落としたよ」

「はい?」

「ほらほら、これ」


 慧三は、立ち止まって振り返った男に近付き、ナイフで心臓を一突きする。


「ぐっ……あ…………」

「ごめーん。今から落とすんだった」


 その命を。


「さよなら、オニーサン」


 返り血を浴びないようにナイフを抜き、男の財布から金を盗んで、慧三は女の家に帰った。

 少ししてから、カノジョが帰宅する。


「おかえり!」

「ただいま、慧くん」


 玄関まで行き、女を抱き締める慧三。


「すぐ、ご飯にするね」

「うん、ありがとう!」


 男は、ニコニコしながら、晩ごはんを待つ。

 カノジョが用意したのは、カルボナーラだった。


「オレ、これ好き~。いただきまーす」


 食後、ふたりでソファーに腰かけて、キスを交わす。


「慧くん、好き…………」

「ありがと。俺もだよ」


 そのまま、彼らはセックスをした。

 その後、ふたりで風呂に入る。


「慧くん、ずっと側にいてね」

「もちろん!」


 女を後ろから抱き締めて浴槽に浸かっている慧三は、カノジョが望む返事をした。

 風呂から出てから、ふたりで晩酌をする。アルコール度数9%の缶チューハイを飲んだ。

 夜更け。ふたりでセミダブルベッドで眠りにつく。

 翌朝。先に起きたカノジョが作った朝食を食べ、出勤するのを見送り、昨夜得た金を持って、競馬場へ向かう慧三。

 少し金を増やして、機嫌よく治安の悪い街へ歩き出す。

 そして、ヤクの売人からMDMAを買って帰った。

 部屋の中でヤクをキメて、幸せな夢を見る。

 愛坂慧三は、どこまでも自堕落に生きていた。

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